コラム2025.12.27
AIDA理論の現在地|思想と現場が響き合い、AIDA理論が動き始める
AIDAコンソーシアムでは現在、会員の皆さまと共に現場の問いを掘り下げるワーキンググループと、松岡正剛と野中郁次郎の方法論の接続点を思想的な次元からひもとく分科会という、二つの場を両輪として、「AIDA理論」の理論体系の構築をスタートしました。
本記事では、AIDAコンソーシアム理事・AIDAフェローの奥本英宏が、理論開発の背景と、実装へ向けたAIDAコンソーシアムの現在地について語ります。
株式会社カプタワークス代表取締役社長
株式会社インディードリクルートパートナーズ
リクルートワークス研究所アドバイザー
―― まず、松岡さん、野中先生との出会いについて教えてください。
[奥本英宏(以下、奥本)] リクルートマネジメントソリューションズの社長だった2012年、松岡さんが主宰し、親会社のリクルートが参加していた次世代経営リーダー育成のための企業横断の研修プログラム「ハイパーコポレートユニバーシティAIDA」に参加したのが、松岡さんとの出会いです。とても大きな刺激を受け、その後、私費でISIS編集学校にも入りました。野中先生は著書を何冊も拝読して長らくのファンでしたし、仕事で何度かお会いしたことがありました。
―― この9月、そのお二人の理論や方法、そして思想をAIDA理論として融合し発展・実装を目指すAIDAコンソーシアムが発足し、活動の両輪となるワーキンググループと、AIDA理論研究の分科会という場が始動しています。
[奥本] 私はワーキンググループ、分科会の双方に関与し、それぞれをサポートしながら、つないでいく役割を担っています。
現在7社の会員企業から派遣された約15名が集まるワーキング・グループで、各自が持ち寄った経営課題をAIDA理論で読み解きながら新しい視点を発見し、それを研究チームや分科会に接続していきます。11月22日に「『変化として、生きる』ための知性」と題して、第一回目が東京・竹橋で行われ、30代後半から50代のワーキングメンバーが集まりました。
このワーキンググループでは、参加者のことを受講生ではなく、フェロー(仲間)と位置づけています。個々のセッションは研修ではなく、ワークショップであり、あわせて、フェローワーショップという仕立てです。ここにいる皆さんはそれぞれの知見を生かし、一緒にAIDA理論をつくり上げていく実践者なのだと冒頭で呼びかけさせていただきました。私も単なるファシリテーターではなく、チームの一員として意見を交わしていきます。初回にも関わらず、参加者は非常に前向きの姿勢でコミットしてくれ、自分たちの切実な課題や問題意識を話し合う素晴らしい会になりました。

マイクロマネジメントが蔓延し、遊びのない職場の現状
―― どんな話が出たのでしょうか。
[奥本] たとえば、現場がマイクロマネジメントに陥り、失敗は絶対に許されないという意識が蔓延して、いつの間にか、イノベーションが起こりにくい風土になってしまったという嘆きや、逆に、シリコンバレーに行ったら、外国人に「日本語にある『生き甲斐』というチャーミングな言葉について、その意味を詳しく教えて欲しい」と言われ、改めて日本が大切にしている独特な感性に気づいた、というような話も出ました。
真面目に遊ぶことがあってもいいのに、いつの間にか「真面目」と「遊び」が反対概念になってしまい、職場で遊ぶことが不謹慎になってしまった。遊ぶための余白をどうつくるか、試行錯誤の機会をどう増やすか、というテーマで話し合うのもいいかもしれない、という議論も出ました。経済的価値ばかりではなく、社会的価値の重要性を社内で共有するのが難しいという話もありました。これまでのやり方を墨守していると、過去の遺産を食いつぶすだけで新しいものが生まれず、事業が先細りしてしまうというのです。
話を聞きながら、「このままではまずい」という現状に対する危機感が伝わってきました。同時に、そうした閉塞的な空気を打破するための試行錯誤を皆さんが悩みながら実行されていることもよくわかりました。そうした知見も、AIDA理論の開発と実装に取り入れていくべきだという確信を得ることができました。

このワーキンググループは来年1月と3月に、それぞれ第2回、第3回が開催されます。来年度も5月から2カ月ごとの開催が決まっています。フェローの皆さんの問題意識と参加意欲が高いものですから、研究チームが検討中のAIDA理論構築のアイデアを前倒しで投げかけていきたいと考えています。
こうした先進的試みに参加してくれた企業が、自らの価値を高めるために切磋琢磨しながら、密度の濃い本気の議論を繰り広げる様子に大きな手ごたえを感じています。

日本的経営論と日本的方法論を融合させる
―― 分科会の模様も教えてください。
[奥本] ワーキンググループと連動してAIDA理論をブラッシュアップしていくのが研究チームです。そのチーム内に野中郁次郎先生の知識創造理論、日本的経営論と松岡正剛さんの編集工学、日本的方法論を融合させ、企業経営の実践知として広く活用できる理論に仕上げる場として分科会を設けています。編集工学研究所代表取締役社長でありAIDAリードフェローの安藤昭子さんと、野中研究室の研究員でありAIDAフェローの川田弓子さん、それに私の3名が中心メンバーです。その他に、編集工学研究所やAIDAコンソーシアムのメンバーが加わっています。 分科会は今まで、10月1日、10月29日、11月26日の全3回、行いました。第1回は野中先生の理論を、第2回は松岡さんの理論を深く学び、3回目は両者の重なりについて考えました。第1回は川田さんと、川田さんの夫で、野中郁次郎研究所の理事である川田英樹さん、第2回は安藤さんから、野中先生、松岡さんに関する様々な話を伺うことができました。

―― 川田さんとはどんな話をしたのでしょうか。
[奥本] 野中先生は、人間の本質は他者と関わりながら意味や価値をつくり出していくことだと繰り返し語っていました。そのこだわりはどこから来ているのか、と川田弓子さんに質問すると、学問と現場の乖離というものが背景にあったのではないか、という答えが返ってきました。つまり、米国のバークレーで最新の科学的人間像について学んだものの、日本企業の現場をくわしく探ると、まったくそのようには人は動いていない。人間の知や意欲は管理するものではなく、内面から湧き上がってくるものだ、と実感したそうです。結果、人間というものは物事を処理する存在ではなく、そこから意味や価値をつくり出す唯一無比の存在だと見なすようになったのでしょう、という答えで、私も大いに納得しました。
野中理論と松岡理論、その共通点と相違点
―― 二人の共通点はどうでしょうか。
[奥本] 野中先生と松岡さんの共通点は3つほど指摘できます。
1つは先ほどお話したように、物事の意味や価値というものを重視していることです。野中先生はその大切さを直接、語っていましたし、松岡さんのいう編集も、情報編集によって新たな意味や価値をつくり出すことを目的としています。人間社会において、数字で表される経済的価値よりも、より本質的な意味や価値の方が重要だということを二人は力説していました。
もう1つは、人間性の重視ということです。野中先生はそれこそ、ヒューマナイジング・ストラテジーという独自の戦略論を唱えました。数字ではなく、野生的な感覚や志といった人間くささのほうが大事なんだということですね。それに対して松岡さんは、編集は人間に代表される生命という有機体が生み出す宿命的なものなのだ、という持論を持っていました。
最後は動的であるということです。野中先生はダイナミック(動的な)という言葉を重用され、物事のプロセスに着目していた。松岡さんもそうで、編集は静的なものではなく、つねに動かし続ける「仮止め」でいいんだというのが口ぐせでした。
―― 逆に違いも浮かび上がってきたのでしょうか。
[奥本] はい。端的に言えば、感覚とか感情とか、感性といった、さまざまな「感」がありますが、その感に対する考え方が二人で違うという話になりました。野中先生はまず虚心坦懐に感じよ、というイメージです。現場に身を置き、空気を吸い、身体に取り込みながら、湧き上がってくる発想を大切にせよ、と。それは直接経験という言葉で表されます。
一方の松岡さんは感が発動しやすい方法論やアプローチを徹底的に考える立場です。たとえば、自分という凝り固まったフレームがあると、一定の感じ方から脱却できないので、「たくさんの私」といったものを意図的につくり出すとか、一個のリンゴを見た時も、果物の一つという認識だけではなく、マックのパソコンを思い出したり、アダムとイブという発想からキリスト教を想起したりといったように、異なる情報を連結させていくといった方法論です。感じるのに理屈は不要だというのが野中先生、感じるための理屈を考えるのが松岡さん。その二人の違いが逆に今後のコラボレーションに大きく役立つのではないか、という議論になりました。
例えば、野中先生いうところのSECI(セキ)モデルにおいて、最初の「共同化(S)」は、「直接経験のなかで五感を駆使し、他者の視点に立ち、暗黙知を創発・共有する」プロセスと定義されます。この共同化が松岡さんの方法論”によって、より豊かになる可能性があるのです。

SECIモデル出所:野中郁次郎による講義動画「知識創造理論」©野中郁次郎研究所
―― 面白い。その通り、野中流SECIモデルに松岡流・知の方法論を組み込んでいったらどうでしょう。
[奥本] そうですね。実はSECIモデルをベースとした、野中先生の二項動態経営モデルをターゲットにしています。この組織的基盤方法論のところ、自律分散系組織・ミドルアップダウン、場(知的コンバットなど)・スクラム、実践的推論、物語りアプローチといった部分に、松岡さんの編集工学が使えるはずで、方法を対応させて列挙してみよう、という話になっています。
AIDA理論創出と実践は自身のライフワークに等しい
―― 野中先生と松岡さんの知的遺産を融合し、新しい経営理論をつくり、実装していくというのがAIDAコンソーシアムの使命です。それは奥本さん自身のビジョンや志とどう関係するのでしょう。
[奥本] 僕が社長をやっていたリクルートマネジメントソリューションズのコーポレートスローガンが「個と組織を生かす」というものです。それはAIDAコンソーシアムの目指すところと同じだと思います。しかも、それはリクルート全体のDNAでもあります。野中先生も松岡さんも人間の可能性や創造性に大きな信頼を寄せていました。AIDAコンソーシアムの目指すところの実現がまさに僕のライフテーマでもあるのです。

そのライフテーマに取り組むうえで意識したいのが実践です。机上の空論を追いかけるのではなく、実践集団として動き、具体的事例をどんどん生み出していく。それを社会に還元しつつ仲間を増やすという活動サイクルが順調に廻るところまで、コンソーシムを成長させていくつもりです。
会員の皆さまの積極的な姿勢と現場からの問いに触発されながら、AIDA理論は着実に輪郭を深め、当初の想定以上のスピードで開発が進みつつあります。
来期には、AIDA理論を現場で活用するための、より具体的な方法論の開発にも踏み込み、実践へとつながる段階へ進んでいく予定です。その歩みを、今後も共有していきます。