座談会

左から、穂積 晴明、須藤 憲司、山下 隆一、名和 高司、住田 孝之、川田 弓子、田中 啓介、安藤 昭子

 一般社団法人AIDAコンソーシアムの設立記念座談会「複雑さと日本の間にあるもの」前編では、参加者それぞれが自身の経験から“複雑さ”の手触りを語り合い、日本独自の「移ろい感覚」についての視点が交わされました。

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後編では、話題は一気に「複雑さ」の社会実装に向かっていきます。日本的方法の可能性をめぐる対話をお届けします。

誰に向かって、何を伝え、どんな変化を目指すのか

―― さまざまな角度から、「複雑さ」をめぐる視点が出されました。ではこれらをどうやって具体的な社会の活動の一部にしていくか、もう一歩踏み込んで皆さんのお考えをお聞かせください。

名和 誰に向かって、どんなメッセージを伝え、いかなる変化を起こそうとしているのか。そうした出口に関する議論でいえば私は山下さんに近いんです。経営や経済に役立たないものをやっても意味がない。松岡正剛さん、野中先生も私は大好きなんですが、お二人の遺産が直接、経営や経済に密接に繋がっているかといえば、必ずしもそんなことはない。正確にいえば、そういうものに対するセンスが日本の多くの経営者に欠落しているんだと思います。
名和 高司

住田 何を以て経営や経済につながるかという価値軸は人によって異なると思います。短期的かつ米国的な市場経済や経営につながっても、そこが本当のゴールではないというのが、このグループの共通認識だと私は思います。持続性のある日本の経営が好きな人がまずは共感してくれればいいと思っています。

名和 日本のために、というのは非常によくわかりますが、一方で、誰がどう共感してくれ、何が残るのかをより明確にしていけるといいと思います。変化を起こし、誰かにそれを気づいてもらい、世界に対してインパクトを出していくべきではないかと思います。

住田 日本人が当たり前だと思っている価値だけれども、世界では一部の人のみが「すごい」と思ってくれているような価値がたくさんありますね。今は何かしらの境界があって広まらない。その境界を越えるためのストーリーをここでつくれたらと思います。それが日本のためになるし、世界のためにもなるはずです。

山下 このコンソーシアムからいろいろなものが生まれてくると、経営者がやりたいと思っていることを内外に説明し、仲間をつくるための有効な道具立てになると思います。それがまずスタートラインで、そこからフレームワークに段々と発展していくことを望みます。

山下 隆一

グローバル・スタンダード化を狙うのが一つのやり方

安藤  私自身は松岡と一緒に、須藤さんや田中さんが参加して下さった「AIDA」というプログラムを20年ほど運用する立場にありました。松岡と共につくってきたその学びの場の重要性については自負していますが、これをどう社会のインパクトにしていくのかというところで長年悩みはありました。名和さんが投げ入れて下さった通りの疑問やジレンマを、私自身も持っていました。ひとりひとりの受講者は何かを掴み取り大きく変容していきますが、それを社会の力にするところまでに距離がある。
 AIDAの世界像を経営の文脈とよりしっかり重ねていくにはどうするといいかと松岡と話をする中で、「野中さんにご一緒いただこう」となりました。そうして、編集工学と経営学、巨匠ふたりの力を組み合わせることになったわけです。
 名和さんがおっしゃった命題は、私も答えがわからない。そこで皆さんと一緒に考えていきたいというのが、このコンソーシアムのそもそもの始まりです。名和さんからいただいた、これを一体誰に届け、どう響かせ、何を期待するのか、という大元の問いはこうした場で毎回持ち続けなければいけないと思います。

安藤 昭子

住田 私の経験から言えることですが、多くの企業が採り入れるようになるには、グローバル・スタンダードにならないといけない。国内でやっているうちは誰も見向きもしませんが、グローバル・スタンダードになったら、急に採り入れ始める。そういうやり方を狙うのもいいのではないかと思います。世界が認めるメソドロジーの中で、日本的テイストが濃厚なものが一つあるというわけです。

住田 孝之

変化量の多い小集団をつくり、変化大事の御旗を立てる

名和 先ほど須藤さんが言っていた「日本のAIは遅れているがゆえに可能性がある」という話は面白いですね。

須藤 私がクライアント企業のDXを推進する際にすごく大事にしていることが、規模は小さいけれど、変化量が多い集団をつくるということです。10万人の会社を変えるときに、いきなり10万人を相手にしてもうまくいかない。そこで、10人から30人のグループをつくり、その中で思いっ切りDXを推進させたり、AIを使ってもらったりというのをやっています。そこだけで300%から500%、変えてしまう。小さい集団の圧倒的変化を確保できれば、その変化が自己増殖的に増えていくというメカニズムを捉えることが重要です。
 私が見ている景色は黒船が来たときの江戸幕府のそれに似ています。黒船がきて、一度お引き取りいただいたとしても翌年にまた来て騒ぎ出すというのを繰り返しているんです。要は先送りするのではなく幕府のような巨大組織をどうハックし、黒船と対峙する野蛮な小集団をどうつくるか。それができると、その人たちに武器や知恵を提供することができます。日本の組織はそうやれば変わる、という肌感覚を私は持っています。AIDAコンソーシアムにもそうしたことの実現を期待しています。

須藤 憲司

田中 僕が意識しているのはゲリラ戦です。何か大きなものを動かすには、とにかく小さい火種をつくらなければならない。その時に、私のような一個人が一生懸命動いても影響力は限定的ですが、、松岡さんと野中先生のお二人の思想を受け継ぐAIDA理論のようなものがあると、大きな火種になると思います。

田中 啓介

須藤 DXはトップダウンだけでは推進できませんが、一方で危機感のあるトップがいないと絶対に駄目です。われわれは、幕末における徳川慶喜がいるかをまずは確認します。その次は勝海舟を探します。あの人の言うことだったら、と皆が聞こうとする求心力のある現場リーダーです。そこに、われわれのような、坂本龍馬や西郷隆盛に代表される脱藩浪人のようなアウトサイダーな人間を組み合わせる。この三点方式でやると、小さい集団をまずは動かすことができるんです。
 DXにもAIにもコツがあります。特にAIには身体がないので身体知がないから、彼らにコンテキスト(文脈)をどう理解させるのかが非常に難しい。組織を動かしていくとき、「どうしたらいいですか」と問うても、いい答えが返ってくるはずがありません。AIはその社会にいないからです。
 でも、そこに、「リーダーはこういう人で、こんなところを大事にしており、これにはうるさく言うので、そこをケアしてあげたい」というコンテクストを入れると、急にシャープな回答が返ってくるんです。こうした非認知能力とでもいえるコミュニケーションのコツを日本的方法として言語化し、さっき話したような小集団にまず渡す。一方で、AIDA(間)に関する大義名分を表わすような御旗を立てる。この2つのアプローチを考えると、社会を大きく動かす可能性が出てくるのではないかと思っています。

日本語対応のSLMを

住田 私はAIにすごく期待しています。世の中、LLM(大規模言語モデル)が大流行していますが、私は日本語対応のSLM(小規模言語モデル)をつくればいいと思っています。つまり、日本語の資料ばかりを読ませたAIをつくれば、日本という方法がおそらく出てくるのではないかと。

住田 孝之

名和 LLMよりもフィジカルAIのほうが面白いと思うんです。

須藤 ロボット技術とAIをどうつなげていくかという話になりますね。ガンダムとかドラえもんに通じる極めて日本的な話で、なおかつ日本人の得意な分野です。

住田 一方でヒューマノイドロボットの開発となると、アメリカと中国が圧倒的に先に行ってしまいましたから、それを使わせてもらえばいい。

安藤 先ほど「日本におけるAIの普及が遅れていることが逆に強みになるかもしれない」という須藤さんのお話がありました。もう少し中身を教えていただけませんか。

須藤 日々変わらないと変化についていけないのはその通りでしょう。でも、変わらないことによって、新しい技術を大胆に採り入れていくことができるのではないかと思っています。今のAIは年間で20~32倍、賢くなると言われています。われわれが1年間、勉強しても20倍賢くなることは考えられないので、後から追いかけることによって何かしらのメリットを手にできる可能性が十分にあると思います。

須藤 憲司

日本は逆輸入に弱い

――野中郁次郎先生も、こうした小さな単位を重視されていましたね。

川田  現実の流れのなかで、機動的に小集団で試行錯誤しながら全員経営するというのはソフトウェア業界のアジャイル開発における「スクラム」という手法がまさにそうです。野中先生が日本企業の新製品開発プロセスの現場を調査している中で得た着想を竹内弘高先生と論文にし、ハーバード・ビジネスレビュー誌に発表したものを、アメリカのジェフ・サザーランド博士が見出し、ソフトウェア開発業界に転用、業界のスタンダードになりました。先生の名誉のために申し上げると、野中理論が経営や経済に役に立っていないということは断じてないと思います。

川田 弓子

名和 日本が充分に役に立てられていないというのが正確です。海外のほうがうまく使っている。

川田 「スクラム」について言えば、日本は逆輸入する、という形になりました。

住田 逆輸入といえば、統合報告の枠組みがまさにそれでした。国内での認知が低くても海外で仕組みにしてしまうと、日本オリジンのものを皆、素直に受け入れる。スクラムの場合は自発的に広がって逆輸入された感じですが。日本という方法に合致する考え方を、うまく世界に認めてもらって、それを逆輸入するというやり方は有効だと思います。

AIDAアジェンダを熟成させながらつくっていく

 ―― ありがとうございました。大変多岐にわたる視点をいただきました。最後にお一言ずつお願いします。

住田 楽しい議論ができました。でも楽しいで終わっては駄目なので、AIDAコンソーシアムとしてこれをやってみようというゴールやビジョンに関し、いくつかの案をつくりながら進めていきたいと思っています。

川田 たくさんの思いと考えが頭の中を巡っており、これから整理したいと思います。貴重な出会いの場をつくっていただき、感謝しています。

須藤 私は何か大きいものに立ち向かうとき、どこかに裏口はないかと考えるのがクセなんです。皆さんと一緒に日本的方法によってバックドアを見つけたいと思います。

田中 日本のために何かをやりたいという気持ちが改めて溢れてきました。僕自身に、大きな産業プラットフォームである三菱商事グループの所属メンバーの一人として、社会のために引き続き使命感を持って試行錯誤を続けながら、前に進んでいきたいと思います。

田中 啓介

山下 大変面白かったです。なかでも、須藤さんの少人数で会社を変えていく話が印象に残りました。今後は企業の管理層、つまりホワイトカラーがAIによって代替されていきますから、そのホワイトカラー抜きでいかにAIを実装していくか。そこに新しい成長モデルを見つけられると面白いですね。

名和 今後はさらに、いろいろなテーマについて語り合いたいですね。例えば、野中先生がおっしゃっていた共感やシンパシーといった議論です。日本人はそこが優れており、その話はこの場でも合うのではないかと思います。感性やアートが経営とどうリンクするのかということも、話し合ってみたい。

穂積 デザイナーは感性のテクノクラートだと思っています。経営という枠組みではないところから、新しいものをデザイナー発ででもつくってみたら面白いでしょう。

穂積 晴明

安藤 本日はありがとうございました。限られた時間ですが、とても心強く、勇気をいただきました。住田さんがおっしゃったように、少し時間をかけながら、AIDAアジェンダ、もしくは「これを成し遂げていこう」という裏口KPIかもしれませんが、そういった何かを日本流にじわじわとつくりながらやっていきたいと思います。
今回は設立記念座談会という位置付けですが、ぜひ、こうした対話をシリーズ化していきたいと思います。AIDAコンソーシアムの背骨をつくっていく過程に、お力添えをいただけると大変ありがたいです。

設立記念座談会

 今回の対話は、それぞれの複雑性をめぐる体験値を足がかりに、現実にどう実装し、社会へ活かすかという展望を交わす「はじまりの場」となりました。
 AIDAコンソーシアムは、寄せられる言葉や発見、そして経験のあいだから、皆様と共に「AIDA」の視点を具体的な方法論へと育てていく器です。今後、どのような問いが芽生え、いかなる実践が動き始めるか。AIDAコンソーシアムのこれからの展開にご期待ください。

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文:荻野進介
企画・構成・進行:福地恵理(AIDAコンソーシアム)
編集:奥本英宏・大久保佳代(共にAIDAコンソーシアム)
デザイン:穂積晴明(編集工学研究所)

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