TOPNewsAIDA理論の現在地|日本的方法論と経営の接地を探る

News

コラム2026.03.25

AIDA理論の現在地|日本的方法論と経営の接地を探る

2026年1月24日、 第2回AIDAワーキング・グループ「日本の編集力とコーポレートオントロジー」 が開催され、AIDリードフェローである名和高司さん、同・安藤昭子さん が講義を担当しました。 モデレータをつとめた奥本英宏が、議論が深まりつつあるAIDA理論の現在地について語ります。

奥本英宏

奥本英宏
一般社団法人AIDAコンソーシアム理事・AIDAフェロー
株式会社カプタワークス代表取締役社長
株式会社インディードリクルートパートナーズ
リクルートワークス研究所アドバイザー
リクルートマネジメントソリューションズ社長、リクルートワークス研究所所長、リクルート専門役員を歴任。企業の人事・雇用・労働市場に関する事業や研究に長年携わってきた、人と組織の専門家。松岡正剛氏が立ち上げたISIS編集学校の講師としても活躍している。「個をあるがままに生かす」をライフテーマにAIDAコンソーシアムに参画。

日本的方法の豊かな可能性

―― 早速、第2回となる今回のワーキンググループ、「日本の編集力とコーポレートオントロジー」の内容を振り返ってみていただけますか。

[奥本英宏(以下、奥本)] 合理的かつ合目的的な西洋的知性に対し、非合理も含む日本的知性を対峙させる。そのための方法論として日本的方法(編集力)を明確化し、それを実践するための企業のあり方を、講義と、フェロー同士のディスカッションで深める、というのが、今回の内容だったと思います。
 日本的方法は変化や移ろいを前提とし、互いのイメージ交換や文脈をつなぐことを大切にして価値を創出していきます。変化の激しいこの時代において、果断なリーダーシップに頼るやり方に比べ、複雑性は高いものの、変化に適切に対応する有効な方法だと私は思っています。名和さんのお話にもあったように、カナダの経営学者、ヘンリー・ミンツバーグ教授はじめ、日本的方法を評価する欧米人も多いようです。
安藤さんは、昨年、邦訳が出された『複雑系としての社会史 社会・技術・環境の共進化と未来』(京都大学出版会)という書籍を紹介してくれました。著者であるオランダ出身の考古学者、サンデル・ファン・デル・レーウも、社会と環境の関係性に着目し、両者の橋渡しをする方法が見受けられるとして、日本を高く評価しているそうです。今回のセッションは日本的方法論を懐古趣味ではなく、新しい普遍性を持って再発見するための良い機会をワーキング・グループの.フェローの皆さんに提供できたのではないでしょうか。

日本の編集力

森の文化、砂漠の文化という秀逸な二分法

―― ただ、日本的方法といっても説明が難しいのは確かです。

[奥本] おっしゃる通りです。八百万の神や多神教という話もあれば、侘びさびや茶の湯文化も外せませんし、クールジャパンのような文脈でいえば、アニメやコミックがその中心にきます。日常的な儀礼や作法、ものづくりのプロセスにも日本的方法が隠れており、複雑なその世界を理解するには何らかの手立てが必要になります。
それもあって、安藤さんから日本文化の特徴を説き起こしてもらいました。具体的には、文化には表層、中層,深層という三層があること、世界の文化は「森の文化」「砂漠の文化」に大別でき、日本は「森の文化」が浸透した典型的な国であることなどを説明してもらいました。しかも、事前の輪読会で、松岡正剛さんの著書『日本文化の革新』(講談社現代新書)をフェロー全員で読み込み、2回にわたって議論をしてきたのがとても役に立ち、当日の議論が白熱しました。
なかでも、フェローの人たちの心に刺さったのが、「森の文化」「砂漠の文化」という二分法だったと思います。砂漠の文化が一神教と馴染みが深く、絶対的なルールを尊重し、強いリーダーシップのもと、普遍性を求めるのに対し、森の文化は共生が求められる多神教的世界であり、ルールは融通無碍の相対的なもので、リーダーシップは強くなくて、物事の個別性が重視されます。
実はこの二分法はフェローの人たちの心に無意識に刷り込まれていたのだと思います。実際に「森」「砂漠」という対比概念が与えられることで、それが意識の遡上に上り、あの場で「そうだったのか」という認識が湧き起こったのではないかと思います。事後アンケートにも、「日本人は曖昧だとよく言われるが、それは森で生きるために必要だったということが腑に落ちた」という記述がありました。フェローの人たちの中に日本的方法論が普遍性をもった瞬間だったのではないかと思います。

ワーキンググループ

―― W.G.フェローからの問いかけや意見も活発でした。

[奥本] そうでしたね。「四半期ごとの決算に代表されるように、期限を区切った現行の数値管理は経営に欠かせないものの、すべてをその対象にするのは間違いで、いい成果が得られない場合がある。そういう感覚を経営陣が共有し始めた」というあるフェローの話に、皆が共感してくれていたのが印象的です。
また別のフェローは「世界で戦っていくためには、今日議論されているような日本的方法に依拠するしかないという実感を得た」と語り、心強い思いがしました。
昨今、日本には世界に通用する方法論がない、独自の文化や方法論はあるけれども、進化に取り残されたガラパゴスのようで世界には通用しない、という自虐論がはびこりがちですが、普遍性を持たせるような形で日本的方法を取り出すと強力なフレームになり得ると、皆が実感したのではないでしょうか。
一方で、課題図書を読んでの事前課題として、「意図している・いないに関わらず、『日本の編集力』が活かされていると思える自社の取り組み事例を3つ挙げてみてください」というお題を出したのですが、これはなかなか難しかったようです。安藤さんが説いた、表層、中層、深層という文化三層論でビジネスや事業を切ってみることを一からやってみないと、この問いには容易には答えられないかもしれません。あわせて、その作業自体が今後、このワーキング・グループで取り組んでみるべきテーマになるはずだとも思いました。
 後半では、こうした方法論や文化を備えた国ニッポンにおいて、日本企業はどのような存在なのか、改めて考えようという意味で、コーポレートオントロジー(CO)を巡る議論に移行しました。
ワーキンググループ

コーポレートオントロジーへ向かう5つの問い

―― コーポレートオントロジーについて詳しく教えてください

[奥本]コーポレート・オントロジー(CO)とは日本語に訳すと、「存在論的組織観」となります。コーポレート・アイデンティティ (CI) を超えて、「そもそも企業とは何か」を問い直しながら、世界との関係性の中で自己像を生成し続けるプロセスとのことを言います。
それは、どのような関係の網目の中で自己と世界を認識しているのかという「関係性」、何を保持し、何を変化させながら同一性を成してきたのかという「持続性」、内外の境界と他者との接続の仕方を、どのように設計するのかという「境界性」、ゆらぎのなかで、どのように意味・質が生み出されているのかという「生成性」、組織に潜在する組織文化、風土・規範・価値観や美意識は何かという「暗黙性」という5の問いがCOを問い直す手がかりとなります。COというと、「それは何ですか」という人が多いのですが、この5つをきちんと説明すると、大きく頷いてくれます。特に経営者がそうです。
言葉を変えれば、COとは日本的方法を企業内で生かすための、パソコンにおけるOS(オペレーションシステム)のようなものです。今まではOSをあまり考えずに、日本的方法の一部や海外から直輸入した方法だったり、いわば使い勝手のいいアプリだけを入れ込み、うまく動かそうとしたけれど、なかなかうまく行かないという状態が続いていたように思います。その問題をクリアするには、やはりOSをしっかり整えなければならない。OSとは具体的には企業独自の経営思想や人材観、組織観などです。それを変化の時代に対応できるように作り変えていく必要があります。

コーポレート・オントロジーへ向かう5つの問い
自分たちのOSを意識できるようになると、日本的方法は随分と実践しやすくなると思います。当日、そこを深めるための議論を行ったわけですが、より企業の実態をふまえた議論とするために、経営学者である名和さんに「カイシャがなくなる日」というタイトルの講義をしていただきました。
名和さんからはAIの先端的活用法から始まり、金融資産、物的資産、顧客資産、そして人財資産の4つを束ねる一番重要な組織資産に着目することの意義などを語っていただきました。最後はアート経営というコンセプトで、文化や物語、身体知、それこそ編集などをキーワードとした新しい組織観、企業観を提示してもらいました。こうした具体論との接続があったので、その後のグループディスカッションが非常にうまくいったと感じています。

―― C.O.というのは、他でも使われている言葉なのでしょうか。

[奥本]いや、違います。これはAIDAコンソーシアム独自の言葉です。CIと対になる概念ともいえ、その根底にあるものだと理解していただくのがよいでしょう。CIは自社を「こう考える」ということですが、その前段階として、自社と世界の繋がり方を考えるのがCOです。もちろん、その世界は固定されたものではなく、常時、揺らいでいます。当然、CO自体が可変的で不確かなものとなります。

ワーキンググループ

経営の美学を改めて問い直したい

―― 企業の社員はその不確かなものと繋がっていないといけないことになります。

[奥本] そうですね。あるフェローが「企業は何によって社員と繋がっていくのだろう」という問いを発していました。 「利益を生み出す組織」と「仲間が集う組織」といった二項的な議論を超え、その中間、より緩やかな関わりの中で価値を発揮していく存在になるのではないか、といった議論も出ていました。 
 かといって、すべて一回やってはまた解散という単なるプロジェクトになってしまうかと思えば、それも違うでしょう。名和さんも言っていました。これからの企業は、中央集権型でもベンチャー型でも、自律分散型でもない、創発型になると。
企業が追求する価値に対し、社員もコミットして強みを発揮していく価値創造というプロセスは変わらないと私は思っています。しかも、それは野中先生が言っていたことにも通じる。人間が相互に関わり合いながら価値を生みだしていく、それが企業の原点だということですね。その理論化をこのワーキング・グループでぜひ実現したいと思います。
 当日の前半のセッションでも触れたのですが、こうした企業の本質を突いた議論をすると、「どのようなスタイルでミッションやパーパスを実現したいのか」という美学が改めて問われるはずです。四半期の決算やコンプライアンス遵守に振り回されているような企業に、美学があるとは言えません。そうではなく、世間がどうであろうと、こういう思想で経営する、こういう考え方でマネジメントしていくという美学をいかに作っていくのか。容易に答えられない難問ですが、ワーキング・グループのフェローにはぜひそれを考えてもらいたい。もちろん、AIDAコンソーシアムもそれを考えるためのヒントを創出していきたいと思います。

奥本

文:荻野進介
文筆家。一橋大学法学部卒業。PR会社、リクルートを経て独立。野中郁次郎との共著『史上最大の決断 ノルマンディー上陸作戦を成功に導いた賢慮のリーダーシップ』(ダイヤモンド社)、『水を光に変えた男 動く経営者 福沢桃介』(日本経済新聞出版)。今春、『リベンジ:野中郁次郎回顧録』(共著、東洋経済新報社)を上梓。

組織に内在する
「見えない価値」を
未来の力へ

AIDA理論について、会員価格や活動内容などの
詳細資料のダウンロードはこちらから

お問い合わせ・入会のご相談はこちらから