TOPNewsAIDA理論の現在地|兆しをつかまえ、見立てをつける

News

コラム2026.08.11

AIDA理論の現在地|兆しをつかまえ、見立てをつける

2026年7月25日、 第5回AIDAワーキング・グループ「AIDA理論ワーク『兆し・見立て』」 が開催され、AIDAリードフェローの安藤昭子と同フェローの穂積晴明が登壇しました。モデレータをつとめた奥本英宏が、議論が深まりつつあるAIDA理論の現在地について語ります。 

奥本英宏

奥本英宏
一般社団法人AIDAコンソーシアム理事・AIDAフェロー
株式会社カプタワークス代表取締役社長
株式会社インディードリクルートパートナーズ
リクルートワークス研究所アドバイザー
リクルートマネジメントソリューションズ社長、リクルートワークス研究所所長、リクルート専門役員を歴任。企業の人事・雇用・労働市場に関する事業や研究に長年携わってきた、人と組織の専門家。松岡正剛氏が立ち上げたISIS編集学校の講師としても活躍している。「個をあるがままに生かす」をライフテーマにAIDAコンソーシアムに参画。

理論を実践し、その材料をもとに理論を磨き上げる

― 今年度2回目のワークショプとなりました。

[奥本英宏(以下、奥本)] 今年度はAIDA理論を具体的に活用してみることを目的に掲げています。AIDA理論の概要の共有を行った前回に続き、今回は兆し、見立て、物語というAIDA回路を構成する3つの要素のうち、前の2つ、兆しと見立てについて、具体的な事業の課題をめぐって理論を深めていきました。

冒頭で、「AIDA理論と現実的課題の接地面をめぐる体感的な議論をしていきたい」と強調しました。この理論は、床の間に飾っておくようなものではなく、あくまで現場で使うべきものです。皆さんの職場における課題に対し、AIDA理論を当てはめたとき、課題解決の道筋や新たなものの見方がどう生まれてくるかを議論し、発想し合いながら、理論のブラッシュアップにつなげるというプロセスが生まれたら、と考え、今回の内容を仕立てました。

― まず理論があり、それを現場の実践知で揉んで、その理論を磨き上げると。新しい学びのスタイルですね。

[奥本] そうですね。AIDAコンソーシアムとして、研究チームが作り上げた内容でよしとするのではなく、ワーキング・グループのメンバーに事業や現場のマネジメントの知見を持ち込んでもらいながら理論を作ることを大切にしてきました。皆さん、それをよく理解し、前向きに取り組んでくれました。

ただ、AIDA理論は日本的方法をベースにしており、それは日常的な物事のプロセスや感性に埋め込まれている方法も多く、その自覚と実践が難しい。そういう中で、物事の見方が変化したり、不可視のものが可視化されるようになったりといった“驚き”をどれだけ生み出すことができるかがこの理論の価値だと思います。今回のワーキング・グループでは、皆さんの発想や想像力の広がり、飛躍が随所で見られ、改めて、この理論の価値を実感しました。

AIDA理論ワークでの議論

kiwaを通じて「兆し」にアクセスする

― 兆しについて、2つのワークショップが実施されました。まずは日本的方法論のひとつ、kiwa(キワ)を考えることで、兆しにアクセスしてみようというものでした。会員企業の1つであるA社の「合併後の新会社における匠制度(高度専門技能者制度)のあり方」について、「kiwaを探り、kiwaを動かすことで、どのような発見があるかを考える」というテーマで、3つのグループに分かれ、議論してもらいました。

[奥本] 内と外を分断しない、日本独特のフレーム感覚がこのkiwaです。間際、手際、往生際など様々なkiwaがあります。今回のテーマの抽象度を上げて考えると、企業に蓄積された暗黙的知識や属人的技能をどのように継承し、組織に広げていくかという議論だと思います。通常でいえば、専門職制度を作り、該当者を認定して終わり、となりがちですが、そういう人材や制度をkiwaと捉えると、新しい発想が生まれるというのがポイントになると思いました。

今回、このkiwaを使ったのは、経営者の人たちと話していると、kiwaの概念に興味を持たれている方が非常に多いからです。エッジのようなものを社内でどう作り出し、動かしていくかということに大きな可能性を感じているのでしょう。

― ワークショップではどんな回答が印象に残りましたか。

[奥本] 技術だけではなく、文化や作法を色で表現し、現在の会社を赤、統合する先を青として、kiwaの色の重ね合わせを発想したグループがありました。それらを重ね合わせていくと融合が起き、紫色の「匠」も生まれてくるはずだと。それに合わせて、AIDAフェローの穂積晴明さんが、可視光の限界である紫外線や赤外線の色が人間にとって特別な刺激として感じられることに触れた議論も新鮮でした。

「匠か、匠でないか」という境界線そのものがどこにあるのかが、そもそも曖昧なのではないかという問いを出発点にしたグループもありました。境目は一つではなく、複数の境目が同時に存在し得るのではないか、自組織だけの課題に閉じず、他組織のなかにある「匠」に相当する存在と共鳴し合う視点があってもよい、という議論もあり、なるほどと思いました。

西洋的な合理的知性、分析的知性のもとでは、「匠とは何ぞや」という分析から始まり、その要件や要素を詳細化して詰めていく議論が一般的です。今回はそこにkiwaという日本的なフレームを入れたことで、分析よりは包含、固定ではなく動かすという、発想が広がる形で匠というものを考えることができ、日本的方法論の大きな可能性を感じました。

― AIDAリードフェローの安藤昭子さんも興味深いコメントをしていました。

[奥本] そうですね。某アメリカAI企業の基礎研究者の談として、「現行の大規模言語モデルの研究は限界に来ている」という話を始めた。テクノロジー は0と1から成る世界です。その0か1かという世界を超えるモデルはどこにあるのか、という話題になり、行き着いた答えが「グレーゾーン」。量子論の世界では観測者によって量子の挙動が変わってきます。観測されるまで動きが確定しないというグレーゾーンの方法論が、テクノロジーの先端を走る、これからのAIをめぐる状況においても必要になってくる。そのヒントは曖昧性の扱いに長けた日本にあるのではないか、というのがその研究者の見解だったそうです。

kiwaをめぐるワークショップ

ものごとの意味を動かし、「兆し」をつかむ

― 日本の曖昧性は悪い意味で語られることが多いものですが、逆にそれがこれからの強みになる。日本人にとって勇気をもらう発言ですね。兆しをつかまえる方法を学ぶ、もう一つのワークショップが「情報の地と図を見極める」というものでした。

[奥本] 「地」とは情報の地模様のことで、「図」は情報の図柄のことです。その組み合わせを変えることで、意味やイメージをダイナミックに動かすことができるのです。

たとえば、マグカップというものを考えます。これを有田町という地に置けば、産品という図になり、倉庫という地に置けば、在庫という図になりますし、ゴミ捨て場という地に置けば、燃えないゴミという図になるというわけです。情報と情報が出合って新しい意味を生み出すという偶発的な知の創発を念頭においたワークショップといえます。

― 実際のワークショップでは、それに倣って、会員企業B社が抱える課題「平時変革」を取り上げました。「リソースが豊富で、目の前の業績が好調であるがゆえに、平時の変革がおろそかになりがち」という課題を、図と地をずらして考えてみるという内容で、3グループに分かれて討議されました。

[奥本] 「平時変革」の地に「お客様視点」という言葉を入れると、「一緒に実験してくれるパートナー」という図が浮かび上がってくるというアイデアが面白かった。変革というと、自分たちが主語になり、新しい動きを自ら作り出すという視点になりがちですが、地をずらして、お客様視点にすると、変革の意味がまったく変わります。自分という主語が消えるので、より多様な立場の、それこそバラエティ豊かな変革を志向できるというわけです。

地に「言葉を変える」と置く、という意見も印象に残っています。結果、「平時変革」という言葉が「模様替え」に変わるということでした。さらに発想を飛ばして、地を企業でなく自分に置き換えると「続かないダイエット」になるというコメントは思わず笑いましたが、対策として伴走者としてのパーソナルトレーナーを入れるなど、企業活動のヒントも見えてきます。

情報の地と図を見極めるワークショップ

― 後半のプログラムは「見立て」についてです。

[奥本] 「見立て」とは、違うモデルを借り世界を豊かに捉え直す方法で、それには、投影(何々みたい)、推量(何々かもしれない)、按配(何々にふさわしい)という3つのベクトルがあることを明らかにしたうえで、「対象と対象の関係の写像を動かす」という意味を持つ投影に関してワークショップを行いました。

穂積さんが作成した「茶室のエネルギー遷移モデル」が題材でした。「関係性のなかで創発する学び」をこのモデルで見立てたら、どのような発見があるのかを3つのグループに分かれ、議論してもらいました。

茶室のエネルギー遷移モデル

[奥本] 今回はたまたま茶室でしたが、歌舞伎や相撲といった伝統芸能にも日本的システムが埋め込まれてますし、モノを見立ての材料に使ってみるのも面白いと思います。逆に、日本以外の国の文化や仕組みを、見立ての材料にしてみるのもいいかもしれません。歴史を振り替えれば、中国の漢字を見立ての材料に使い、日本人は万葉仮名を作り出しました。日本は中国の文物を直輸入してそのまま使わなかったわけで、見立てをしながら独自のプロダクトやサービスをつくりだす文化が古来、息づいているのだと思います。

― 今回のワークショップで印象に残っている見立てがあったら教えてください。

[奥本] 図の中央にある一本の直線(炭→炉→釜→湯→茶碗→客という最短経路)が「工業化モデル」そのものではないか、という指摘がありました。お茶を単に飲みたい人にとっては直線だけで用が足りるが、実際の茶室では、煙や湯、音、花、掛物といった副次的な情報が豊かに存在している。今の消費者も機能だけではなく、意味も求めるようになってきている。直線的なサービスモデルに頼るのではなく、周辺の要素を充実させていくことが、これからの新しい価値提供につながるのではないかという整理に思わず唸りました。

新入社員を「お客(客)」に、教える自社商品の知識を「お茶」に見立てた発言も興味深かったです。現状の新入社員教育は、商品が何でできているか、どんな茶碗(容器)に入っているか、お湯はどうか、といった機能的な理解の説明に終始している。一方で、音や香りに相当する、体感を通じて商品の満足につながっていくはずの周辺要素の提供と理解がおざなりにされているのではないか、という見方です。学びのゴールを「商品を理解する」ではなく、「商品を体感する」に切り替える必要があるのではないか、という話で盛り上がりました。

全く異なる文化的背景を持つ外国人が茶室に入った場合、その体験の良否はコンテクスト(文脈)の共有状況に大きく左右されるという指摘もありました。その場合、東洋の禅を西洋風に解釈したマインドフルネスのように、きちんとした説明さえあれば、たとえ茶の知識がまったくない人でも、ごく自然に茶のシステムを見立てにつかっていくことができるだろうという意見があり、私もそう思いました。

このワークを実践してみて、日本的方法論の中でも、見立てというのは相当パワフルであることを改めて実感しました。一方で、この見立てのワークはその実践に慣れが必要です。当日も強調しましたが、見立ては稽古なんです。繰り返しやることで、習熟していくことができる。

見立てをめぐるワークショップ

海外でも通用する日本的方法論の普遍化

― AIDAコンソーシアム理事の住田孝之さんも「見立てはプロセスが大切であって、見立ての内容はどんどん変えていい」と言っていました。

[奥本] その住田さんは、「見立てに代表される日本的な方法論は日本人特有のセンスに拠るところが多く、それを世界に向けて事業展開をしていく際の強みやエンジンにしていけばいい」と言っていました。一方で、AIDAリードフェローの名和高司さんは「日本人だけが分かるものを作っても意味がない。グローバルで通用する普遍性の高いものに作り上げていくことが重要だ」と述べていました。AIDAコンソーシムでは、日本的な方法を言語化し、モデルにしようとしています。海外でも通用する日本的方法論の普遍化に取り組んでいるわけです。

ただ、そうやって抽出し、形式知化した方法論は日本人が世界の中で最もうまく使えるはずです。ということは、価値を創発する取り組みに対し、日本人が優位性を発揮できるということになるのではないかと思います。

― ドイツのあるデザイン会社では、日本語の「間(ま)」という概念はをドイツ語に翻訳しようがないから、そのまま「ma」として学んでいるという話が安藤さんから披露されました。

[奥本] そういう例が増えているようですから、われわれも急いで、日本的方法論をグローバルで通用するソフトに構築しないといけないですね。

AIDAワーキング・グループでの対話

次回は、今回と同じようなワークショップ形式で、物語と場について考えていきます。事前課題の中で、理念やビジョン浸透を挙げるメンバーが多く、特に物語の部分でそれについて触れたいと思います。

  

文:荻野進介
文筆家。一橋大学法学部卒業。PR会社、リクルートを経て独立。野中郁次郎との共著『史上最大の決断 ノルマンディー上陸作戦を成功に導いた賢慮のリーダーシップ』(ダイヤモンド社)、『水を光に変えた男 動く経営者 福沢桃介』(日本経済新聞出版)。今年10月、『野中郁次郎回顧録(仮題)』(共著、東洋経済新報社)を上梓予定。

組織に内在する
「見えない価値」を
未来の力へ

AIDA理論について、会員価格や活動内容などの
詳細資料のダウンロードはこちらから

お問い合わせ・入会のご相談はこちらから