2026年3月28日、 第3回AIDAワーキング・グループ「価値を創発し続ける経営」 が開催され、AIDAフェローである川田弓子さんが講義を担当しました。モデレータをつとめた奥本英宏が、議論が深まりつつあるAIDA理論の現在地について語ります。
株式会社カプタワークス代表取締役社長
株式会社インディードリクルートパートナーズ
リクルートワークス研究所アドバイザー
野中氏本人による迫真のビデオ映像
― 昨年11月、本年1月、そしてこの3月と、今年度のワーキング・グループが終わりました。これまでを振り返っていただけますか。
[奥本英宏(以下、奥本)] 来年度、つまりこの5月から始まるAIDA理論づくりの基礎固めをする全3回でした。第1回目は「『変化として、生きる』ための知性」と題し、変化が常態となったこの時代に生きる時代認識を共有しました。第2回目は、松岡正剛さんの方法論と企業の存在論について討議した「日本の編集力とコーポレートオントロジー」というセッションでした。第3回目となる今回は、動的な価値創造モデルである野中郁次郎先生の組織的知識創造論(SECI【セキ】モデル)をテーマとした「価値を創発し続ける経営」でした。
まず前半、その野中理論について、一般社団法人野中郁次郎研究所CRO、昭和女子大学グローバルビジネス学部教授でAIDAフェローの川田弓子さんによる解説があり、その後、昨年1月に亡くなられた野中先生ご本人によるビデオ映像が続きました。
― ビデオ映像は逝去2カ月前に録画された胸に迫るものでした。
[奥本] 貴重な映像でしたね。分析過剰、計画過剰、コンプライアンス過剰といった日本企業が陥っている“三つの過剰”の話から始まり、氷山モデルにたとえられる暗黙知と形式知の本質的意味、暗黙知と形式知が相互作用しながらスパイラルに価値を生成、増幅していく、共同化・表出化・連結化・内面化というSECIモデルの4フェーズの解説、共通善、相互主観性、自律分散系といったSECIモデルを成立させる3つの基盤といった内容でした。
― 具体的にはどのような内容でしょうか。
[奥本] 昨今の職場では知識創造理論でいう暗黙知を皆で共有し、新たな知を生み出すための対話や交流が難しくなっている状況が共有されました。その背景には、若い世代の意識の変化、対話や交流を行うための時間的ゆとりの喪失、はたまた、物事の意味を問う本質的な議論の忌避といった、さまざまな要因があることも明らかになりました。それこそ、イノベーションが起きず、メンバーのモチベーションも上がらない、多くの日本企業が直面している課題の根っ子にあるものではないかと思います。
川田弓子さんによるKey Noteセッション1:野中理論とは
本質的議論に必要な3項目
― 暗澹たる気分になったということでしょうか。
[奥本] いや、そうでもないんです。というのも、皆さんとの議論を行うなかで、解決の兆しも見えてきたからです。 一つには問いの重要性です。問いの設定いかんで、いくらでも本質的なテーマが議論できると感じました。今回のセッションではメンバーが一対一のペアになり、自分が大切にしている「パーパスについて」というお題で対話をしてもらいました。10分間で区切りましたが、短時間でありながら、とても深い対話がなされていました。
― まったくその通りで、私も対話に参加させてもらいましたが、普段なら口にしないことまで話していました。
[奥本] 本質的な対話というものは、場と相互の関係性が整っていれば10分でも可能なのです。逆にいえば、今の企業内の多くの対話は問いの力や職場の関係性が弱くなっている。価値の創造を巡る対話よりも、経済性や効率性、リスクヘッジなどを目的とした会話が多くなりがちということなのかもしれません。二つ目に「これだ」と思ったのは、ゲストとして来られていたエーザイで知識創造活動を統括している高山千弘さんのお話です。
エーザイでは社員が患者の元に赴き、喜怒哀楽、つまり暗黙知を共有することが全社的に業務時間に組み込まれているそうです。「対話しようよ」と呼びかけるのではなく、思わず対話したくなるような、現場体験、顧客との共体験のほうが重要だと気づかされました。専門分化が進み、プロセスがきれいに整地され、顧客からクレームが来たとしても、カスタマーセンターやチャットボットが対応するようになると、仕事のリアリティが失われてしまうんです。組織が大きくなれば、顧客や現場からの距離が遠くなる部署や社員が増えるのは当然ですが、新たな価値を生み出すという意味で、現場や顧客の情報に触れて情感が刺激され、社員が思わず語りたくなる機会をうまく設計していくことが非常に重要であることに気づかされました。
三つ目は川田さんのお話にヒントがありました。野中先生が現場・現実・現物の時空間の只中で感じた違和感や異質性を素直に表明することを大切にしていたと。同質性からは新しいものは生まれない、組織内外の異質な意見や見解がぶつかり合うことで、場の相互作用のなかで、組織が大切にしている本質的な価値が再発見されたり、「こうとしかいえない」というような新しく「跳ぶ」発想が集合的に直観されたりするということです。
― AIDAリードフェローで、編集工学研究所代表取締役の安藤昭子さんが、数学者の津田一郎さんの言葉を引きながら、ノーベル物理学賞受賞者の湯川秀樹が原子力委員会委員を辞任した意味のエピソードを話していました。基礎研究を重視し、原発の建設はじっくり進めるべきだと主張した湯川が、海外技術の導入による早期の建設を推し進める委員の威圧的な発言に嫌気がさして辞任した。これにより、原子力委員会において原理原則を問い続ける機能が喪失してしまったと。
[奥本] 同じことですね。原発建設における科学的かつ専門的な知見が失われたことよりも、問題の本質を問うプロセスが失われたことが原子力委員会にとって大きかったということだと思うんです。
つまり、問いを工夫すること、現場体験や顧客との共体験を重視すること、違和感や異質性を素直に表明すること、この3つができさえすれば、日本企業でもメンバー同士の真摯な対話がもっと盛んになる可能性があるということです。
ゲスト:エーザイ知創部の高山千弘さん
知識創造とナレッジマネジメントは異なる
― 前半の最後、自律分散系の話のなかで、野中先生が唱えたミドルアップダウンの話が出てきました。ボトムアップでも、トップダウンでもない、ミドルが主役になる日本企業独特の経営手法です。
[奥本] そうですね。以前は、市場の動きが早くなったり組織がフラット化したりして、ミドルという役割は早晩要らなくなると言われたものですが、そうはならず、昨今、むしろミドルの重要性は増しています。
川田さんの話で面白かったのは、ミドルアップダウンのミドルとはミドルマネジャーのことではなく「中間者」としての役割を指していて、社長であれ役員であれ、ミドルアップダウンの当事者となることはあり得ると。たとえば、株主総会において、投資家に向かって業績説明をするときの社長はまさにミドルの役割を果たしているわけです。
つまり、トップやミドルだというのは絶対的なものではなく、他との関連性で決まるということだと思います。第2回目のテーマのコーポレートオントロジーがまさにそうで、それこそ、ほかとの関係性の網目の中で自社を見直していくという考え方です。他者との関係性の中で自らの機能を発揮していくことの重要性を改めて認識しました。社長であれ役員であれ社員であれ、すべてのビジネスパーソンはミドルアップダウンを繰り返しながら、相互作用し続ける関係性の流れのなかで、未来に向かって意味や価値を創造する存在、と見なしてみるのも面白いと思いました。
― その流れの中で、川田さんが知識創造とナレッジマネジメントの違いについて言及していました。
[奥本] ナレッジマネジメントは意味や知識をマネジメントし、使いやすくすることだけれども、それをやるとナレッジが固定してしまう。そうではなく、知識創造で大切なのは、新しい意味や価値を創造するプロセスをマネジメントすることだと川田さんが話してくれました。つまり、プロセスを固定したものと考えずに、常に試行錯誤しながらそれをつくり変えていかなければならないんです。
― ここも松岡さんの編集工学につながりますね。
[奥本] はい。知識や情報は常に仮止めであり、固定化せず常に動かすものだ、というのが松岡さんの口癖でした。一旦組み上がって制度や仕組みになったものに対し、日本人は悪い癖があり、ひたすら精緻化、徹底化してしまう。もしかしたら、それが今の日本企業の息苦しさの元凶になっているのかもしれません。一旦決めたものでも、それでよしとせず、動かし続ける、改善し続ける、余白をつくり続けることが重要、ということだと思います。
ペアワークでの対話
野中氏いわく「経営は生き方だ」
― 後半は野中先生の略歴と研究成果としての著作を川田さんから紹介していただきました。
[奥本] そのうち、あるメンバーが発した「野中理論は、野中郁次郎が日本人であるということと密接な関係があったのか、なかったのか」という川田さんあての質問が印象深かったです。川田さんの答えは「あったと思う、そして同時に人間の理論としての普遍化も目指した」ということでした。やはり日本人は暗黙知のような目に見えないもの、曖昧なもの大切にし、そこから価値を生み出すことに長けているのは間違いありません。そこを改めて整理し、経営の実践に織り込んでいくことで、日本ならではの価値創造のモデルとして世界でも通用するAIDA理論をつくり上げたいと思いました。
― 「知識創造理論は昭和っぽくて安心する」という意見も出ていました。
[奥本] 知識創造理論は価値創造の経営論です。価値を創造するには一定の意志や熱量といったエネルギーが不可欠です。創造性を取り戻すためには、皆の心に火をつけたり、組織の熱量を上げたりして、しかるべきエネルギーをつくり出さなければなりません。野中先生は人が働くことに対し、非常にポジティブなイメージを持っていた。若い世代のなかの、できるだけ楽に働き、お金を得られればいいと感じている人たちは違和感を抱くかもしれません。そういう意味では、野中理論は太陽で、弱さや儚さを重視した松岡さんの編集工学は月といえるかもしれない、という参加者の声があり、なるほどと思いました。われわれが生きて行くためにはどちらも必要です。
野中先生は「経営は生き方だ」と喝破していました。トップからミドル、ボトムまで、個々のメンバーが全存在をかけて取り組んでいることが経営には自然に沁み出してくるものだ、という意味だと思います。
そこには不合理や不条理、感性や情緒が大いに関係してくる。合理だけではとらえきれない、それらを備えた個人をどう受容し、価値や意味の創造につなげていくか。多様な個人を受け止める口を広くしていく必要があると思います。
今後の予定ですが、今年度はまさにAIDA理論の構築に取り掛かっていきます。初回となる5月にはAIDA理論の概要を発表し、それに対する議論を深めていきます。それに向け、私もメンバーの一人となっているAIDA理論の研究部会では理論づくりの最終作業を急ピッチで進めているところです。
分科会でのAIDA理論研究
幅広い分野で使える、意味や価値を創発する理論
― そのさわりを教えてもらえますか。
[奥本] これから開発されていくAIDA理論は、見立て、兆し、物語という3つのキーワードをもとに、松岡さんの編集工学的な方法を野中先生のSECIモデルにつなげ得る、価値創発の仕組みになっていくと思います。暗黙知の表出を促す方法や、知を連結する多様な方法によって、SECIモデルの効果をより高めていくことができると考えています。 SECIモデル同様に、AIDA理論も幅広い分野で使える、意味や価値を創発する理論にしていきたいと思います。組織の運営やサービス開発、組織開発、個人のキャリア構築など、さまざまな場面で活用できる理論を目指します。そのAIDA理論のお披露目となる次回のAIDAワーキング・グループを5月末に行いたいと思います。
合理的知性と自然的知性を架橋する
「日本的知性」を求めて
2月4日夕刻、新宿中央公園の近く、西新宿・十二社(じゅうにそう)通り沿いのビルの1階で、AIDAコンソーシアムの記念すべき第一回目のシンポジウムが行われた。第一部のトークセッションで、開会の辞(Opening Address)を述べるべく、登壇したのが一般社団法人AIDAコンソーシアム代表理事の安藤昭子氏である。安藤氏いわく、AIDAコンソーシアム設立の背景にあるのは、原因と結果が大きく乖離しがちな、複雑性を増すこの社会そのものだという。
ただ、宇宙開闢以来、この世界が複雑でなかったことはない。そこで、その複雑な世界を予測可能で制御しやすくするため、大きな役割を果たしているのが、科学に代表される西洋由来の「合理的知性」である。その対極にあるのが、複雑な世界を構成する「自然的知性」であるが、両者を架橋し、すき間を埋めるものとして、安藤氏は「日本的知性」を置く。「変化とともに生きるための知性であり、自然との共生を志向するものだ。日本人は空気を読む、間を取るといった表現に代表されるように、目に見えないものを扱うことに長けている」
ここで、コンソーシアムが掲げる「AIDA」の意味が安藤氏により披露された。Analogical Integration of Dynamic Associationである。「物事の『あいだ』にある動的な関係性や目に見えない価値に注目し、それらを連想的かつ連鎖的に統合することだ」
AIDA理論の知的基盤として、安藤氏はもう一つ、コーポレート・オントロジー(Corporate Ontology:存在論的組織観)という概念を挙げる。「コーポレート・アイデンティティ(Corporate Identity:企業の存在意義)は企業ロゴやスローガンなどに反映されているが、環境変化が激しく、一つの固定したアイデンティティだけでは、企業が経営を持続、発展させられない時代になった。そこで、そのCIを超え、企業とは何かを問い直しながら、世界との関係性の中で生成し続けるプロセスとして自社像を更新し続けるプロセスが重要になる。それがCOだ」
実はAIDA理論の原型は出来上がっている。真ん中に「情緒」があり、その周りを「兆し(問い)」「見立て(アナロジー)」「物語(存在の系譜を多様な可能性に解放するもの)」の3つが渦巻きながら、複雑な外部環境と呼応するというものだ。「この作用により、個の情緒が解放され、組織の情緒に束ね直されていく」。野中郁次郎が存命ならば、この情緒を「暗黙知」と置くだろう。
中小企業の元気を涵養し
日本的フレームワークを渡したい
続いて、AIDAメッセージと題し、3名が登壇した。トップバッターは、経済産業省中小企業庁長官の山下隆一氏である。演題は「AIDAコンソーシアムへの期待」というものだ。
山下氏はスライドを見せながら、「日本産業の現状」についてデータを参照し説明した。
要点を記すと、海外投資とM&Aに力を入れているものの、国内投資は及び腰だ。実際の国内投資額も1995年を100とした場合、2021年は120とほぼ伸びてない。研究開発費も2007年から2021年まで、19兆円から20兆円と横ばいに留まる。売上高に占める設備投資の割合、同研究開発投資の割合、GDP総額に占める人的資本投資額の割合、この10年を通し、すべて日本は低迷している。
デフレの下、こうしたことで産業競争力を失ったが、現在の経済はインフレ含みの成長基調にある。そこで新たな経済の担い手として、山下氏が注目するのが、成長意欲の高い中小企業だ。特に後者のうち、オーナー系企業は経営と現場の距離が近く、よい意味でガバナンスが効いており、社長が本気になると会社が大きく変わる可能性がある。
そうした企業の経営者をターゲットに、中小企業庁が取り組んでいるのが、売上高100億円という野心的な目標を宣言し、それを中小企業成長加速化補助金の要件とする「100億企業創出」プロジェクト。2025年5月の「100億宣言」には2288社(2月2日現在)が名乗りを挙げ、毎月100社ペースで増加中であることに山下氏は勇気をもらったと言う。
件の宣言の効果につき、山下氏が語る。「まずは当の経営者自身が変化する。儲けるために計画的に何をすべきか、経営者目線で物事を考えるようになる。従業員も変化する。うちの社長はそういうことを考えていたのか。一緒にやろうと元気になる。地域の他の経営者も影響を受ける。あいつがやるなら、俺もできるかもしれないと。身近な人の変化が、実は起業家に極めて大きなインパクトを与えるドライバーになる。シリコンバレーやシンガポールのスタートアップでは、そうした例が、起業の良い刺激になっていた。その日本版が起きている」
ただ、不足しているものがある。経営者の挑戦や成長を後押しする知的フレームワークだ。「必要なのは、新たな価値のつくり方であり、他社と比べた差別化の方法だ。それは日本で暮らしている中で培われた社会的、文化的土壌と不可分であり、既存の西洋的な経営のフレームワークだけでとらえきれない。AIDAコンソーシアムには松岡正剛氏と野中郁次郎氏のメソッドを組み合わせ、日本の身体感覚に合致したフレームワークづくりを期待したい」(山下氏)
クラフトとエシックスを
日本企業は取り戻すべき
AIDAメッセージの二人目のメッセンジャーが、AIDAリードフェローであり、京都先端科学大学教授にして一橋大学ビジネススクール客員教授でもある名和高司氏である。演題は「シン日本流経営の実践」であり、その名の通り、名和流の新しい経営モデルが提示された。
名和氏は冒頭、日本が一位をとった明るい話に言及する。スイスの世論調査会社、イプソスが集計した「国家ブランド指数2023」において、日本がドイツ、カナダ、英国、イタリアなどを抑え、堂々1位になったというのだ。その理由として、信頼できる国であること、日本という場所には他の国々にない場所がある、という2つがあるという。名和氏はこう語る。「日本を進化に取り残されたガラパゴスと見る向きがあるが、まるで見当外れだ。何より世界遺産の筆頭であるガラパゴスに失礼だ」
シン日本流経営では無形資産を重視する。物的資産、金融資産といった目に見える資産よりも、人財資産、顧客資産、そして何より組織資産を大切にする。
顧客資産はわかりやすい。人財資産に関して、名和氏は「人財=考え方×熱意×能力」という、京セラ創業者の故稲盛和夫が作った成功方程式を援用する。いくら能力(ポテンシャル)が高くても、考え方(パーパス)や熱意(パッション)が低ければ全体の値も下がってしまうというわけだ。人の能力を最大化すれば市場で勝てるという昨今流行りの人的資本経営とはまるで違う考え方である。
そのうえで、名和氏は「組織資産=αβΣ(人財)」と定義する。αとはパーパス、カルチャーといった企業におけるソフト、βとはアルゴリズム、仕組みといった同ハードを意味する。この仕組み化がうまく行っている企業は稼ぐ力が強く、株価が高い。キーエンス、ファーストリテイリング、リクルートなどが代表的企業という。Σ(人財)とは、人財資産の総和ということだ。この3つをかけ合わせたものが組織資産となる。
名和氏はカナダ人の経営学者のヘンリー・ミンツバーグ氏と親交がある。ミンツバーグ氏は経営にはサイエンス、アート、クラフトという三要素があると考えており、そのうち、クラフト、つまり現場力や匠の技を重んじている。そのミンツバーグ氏が「日本企業は優れたクラフトを持っていたのに衰えてきた」と現状を憂いているという。
先の3つに加え、エシックス (倫理) を重んじてきた点が、日本的経営の美徳だったという点にも、ミンツバーグ氏に共感してもらった。「倫理とは何かと何かの間をつなぐ関係性の哲学だ。人間、時間、空間、すべて間がある。クラフトと倫理があれば、サイエンスとアートはうまく機能する。AIDAコンソーシアムでの議論において、今後、ぜひ取り上げたいテーマだ」
江戸が教えてくれる
日本的知性のあり方
三番目のメッセンジャーは、田中優子氏である。AIDAアドバイザーであり、松岡正剛氏が創始したイシス編集学校の学長でもある。法政大学名誉教授、江戸文化研究の泰斗としても知られる。
冒頭、このシンポジウムが行われている会場付近は江戸時代は巨大な池の底だった、という話が聴衆の興味を引いた。ここ西新宿の十二社通り付近は、熊野神社が今もあるように、熊野の地に見立てて開発された。その見立てというのが 日本的知性の方法の一つだという。「今日の私の話を文化の話だと思わないでほしい。 経営にも組織の作り方にも見立てられるはずだ」と田中氏が述べる。
最初の話題は変化だ。「日本人は変化に寄り添いながら生きてきた。すでにあるものと、次に生み出すものの『あいだ』に『今』がある」と田中氏。現代における俳句の原型として、江戸時代、連句というものがあった。五七五の発句に対し、七七の脇句をつけ、さらに五七五の第三句をつけ、というように、全体が連綿と続いていく。自分が思ったことを表現しても、意図しない内容の句を別の人が付けるため、お互いが相対化され、自分が自分でなくなっていく。
たとえば、「苔ながら花に並ぶる手水鉢」という芭蕉の575に対し、去来が「ひとり直りし今朝の腹立ち」と77を、さらに「いちどきに二日の物も食うて置き」と凡兆が575をつけた。花のように美しい苔の話を芭蕉が提示し、それを見たことによって怒りが収まったと去来が記す。ところがその真の原因は、二日分も腹いっぱい物を食べたことだったと凡兆が表現した。この連句のように、遊び事を楽しむ仲間は「連」と呼ばれた。「その仕組みは人と同一化せず、無関係にならない。大集団を組まず、個々の関わりをつくる。受け継ぎ、受け取り、変化させる」
この連のありようこそが江戸時代の人間関係そのものだったが、もう1つ、「権威によりかからない」という特徴もあった。それは「順番をつけない」ことと同義であり、番付があっても、順位は記さなかった。「競い」も「遊び」の一種だったという。「平安時代出自の『合わせ』という競いの方法がある。これは選ぶ(すく)ためのもので、競争とは違う。『古今集』『新古今集』などの八代集が成るにあたっては、この、すく思想があった」
何かの権威化も嫌われた。「俳諧が高尚な文学になり権威化すると、狂が発生し、狂歌、狂詩が生まれた。そこから咄の会が、そして落語が生まれた」
ものづくりの場面ではどうか。かつて、中国から輸入された漢字が表音文字として取り入れられ、それとは別の仮名文字が生まれたように、外国から輸入されたものを一手間、一工夫を加えて使うのが日本流だった。中国から採り入れた活字印刷を版木印刷に、インド出自の更紗(木綿布)を日本版の和更紗にして活用、中国から輸入した磁器も柿右衛門としてヨーロッパへの輸出仕様に作り替えた。同じように、レンズ製品、和ガラス、銅版画などもヨーロッパからの輸入品を独自に変化させて使用した。特に和時計は面白いもので、一定にしか動かない時計を、季節によって変動する太陽の動きを反映するよう、日本流に作り変えて活用した。
田中氏はこう結んだ。「江戸時代は技術と工夫の集中化の時代だ。外から来たものをそのまま取り入れず、何かの工夫を加え活用したり、別の何かを生み出す刺激にしたりする。今の日本では廃れてしまった作法だが、今もきっとできるはずだ」
匠(たくみ)の仕組み化とAI活用、 そして身体的知性の復権を
続いてパネルディスカション「複雑さを力に変える動態経営」に移る。パネリストは、既登壇者の名和高司氏、田中優子氏、安藤昭子氏の3名で、モデレータを、AIDAフェローであり、リクルートワークス研究所アドバイザーの奥本英宏氏がつとめた。
冒頭、奥本氏がここまでの議論を総括したうえで、日本企業の価値創造をどう見ているか、という問いを発した。
それに対し、名和氏は、0から1、1から10、10から100にするフェーズの3つに分けた上で、10から100のフェーズが最も弱いのが日本だと指摘する。「日本人の小市民性が現われているが、それは悪いことではない。そこを逆に強みにすべきだ。10から100を目指すことでいえば、欧米が長けている。たとえば米アップルの製品は素材も部品も日本企業のものとなっている。そうやって100を目指す世界の大企業に、日本の中小企業の製品を使ってもらえればいい」
安藤氏は、日本独自の和時計を作ったように、江戸時代までの日本は価値創造に長けていたが今は違う、という先の田中氏の話に同意する。「いまなぜそれが弱くなっているのか、どうすれば取り戻せるのか、議論していきたい」
田中氏も日本企業が価値創造をうまく行えていないという考えに同意する。「その背景には地方による差を認めず、国全体を同じにする、という考えがある。しかも、自分たちを欧米に合わせすぎている。世界はもっと多様だ。自分たちのやり方を生み出せば、それが世界に通用するかもしれない。そこが日本はできておらず、残念だ」
では、価値創造が停滞している日本が、そこから脱するにはどうしたらいいのだろうか。奥本氏の問いかけに対し、名和氏は企業における「匠の仕組み化」の弱さを指摘した。技や技術はあるものの、その収益化がうまくいっていないというのだ。「収益化には野中先生の唱えた知識創造理論における、関係者の暗黙知を共有する共同化が鍵を握る。そこにAIをもっと使うべきだ。逆にいえばそこに日本企業の伸び代がある」
安藤氏も暗黙知の大切さを認め、その上で、田中氏が指摘した「見立て」も、「なんらか掴み取った兆しを日の元にさらさずに、物事を動かし、別の世界像を提出する方法」として期待を寄せる。
安藤氏は、田中氏が言及した連の仕組みも、企業の価値創造に応用できると述べた。「自分を固定化しない、つかず離れずの仕掛け。自分を半身あけておき、いつでも変われるようにしておく。合理的知性にとらわれ過ぎてしまった今の日本人が失いかけているものだ」
最後、奥本氏が「日本的知性を生かすために、企業はどうするべきか」と問いかけた。
この問いに対し、田中氏はAIの活用を呼びかけた。「紙漉きという動作は複雑極まる人体の動きから成り立っている。機械化が絶対無理と言われてきたが、AIにその動きを模倣させることはできるのではないか。日本の技を組み立て直すために、AIをもっと活用してもらいたい」
名和氏は逆にAIとは別の分野に目を向けることを推奨する。「日本はバイオ研究の分野で世界有数の力がある。自然科学への注目がもっと集まるべきだ」
安藤氏は日本人の身体的知性に着目する。「江戸時代以前の日本人は、考える前に察知するといった身体的知性を暮らしやものづくりに活かしてきたが、それは今も私たちの身体の中には残っていて、自らの優位性として使っていけるはずのものだ。そのための鍵となるのが情緒だ。情緒の解放と、それを日本がどう扱ってきたのか、その両方を見ていくことが必要だろう」
理論と実践の融合
新たなモデルづくり
次にAIDA Working group Updateと題されたパネルディスカッションが行われた。AIDAコンソーシアムは、会員企業から派遣された人たちで構成されるワーキンググループと、AIDA理論の研究チームの両輪で動いている。今回は7社ある会員企業のうち、4社から各1名、計4名が登壇した。ネットワンシステムズの執行役員 中部支社長の松本陽一氏、ヒューマンリンク 人材・組織開発コンサルティング事業開発室兼みらい人事研究所シニアマネジャーの水谷壽芳氏、Kaizen Platform取締役CFOの高﨑一氏、アミタ代表取締役社長の宮原伸朗氏である。前出の奥本英宏氏が再びモデレータをつとめた。
まず奥本氏が、ワーキンググループに参加するにあたり、各自が抱いている問題意識を尋ねた。システムインテグレーター、ネットワンシステムズの松本氏は効率やスピードが優先される昨今の風潮への違和感があるという。「短期間で成果を挙げることばかりが持てはやされているが、もっと楽しく、ゆっくり仕事をしてもいいのではないか。そのヒントを探り、形にしていきたい」
水谷氏が所属するヒューマンリンクは三菱商事のグループ会社で、グループ企業約1200社の人事を一手に引き受けている。水谷氏いわく、「われわれの相手にしている世界は複雑で、暗黙知だらけだ。その間に入り込み、活動していくため、兆し、見立て、物語といったAIDA理論が非常に役立っている」という。
高﨑氏がCFOを務めるKaizen Platformは2013年創業の若いベンチャーだ。高﨑氏は「うちはマーケティングのDX(デジタル化による変革)を行うコンサルティング会社だ。かといって、テクノロジーの変化だけ追っていればいいわけではない。組織の文化や土壌についての洞察が不可欠で、そのためにこのワーキンググループに参加した」と述べる。
アミタはサステナビリティ向上を目指す企業へのコンサルティングを手がけている。宮原氏はその社長だ。「目下、社員一人ひとりの自己組織化を模索している。その一環として、KPI(重要業績評価指標)ではなく、プロセス評価に重点をおいたOKR(Objectives and Key Results:目標と主要な成果)という目標管理フレームワークを導入している。この会を通じ、アミタ流の方法論をよりブラッシュアップさせていきたい」
このワーキンググループの会合は2025年9月以来、これまでに2度開催されている。続いて、奥本氏が今後のワーキンググループの今後の可能性について各自に問うた。最初に宮原氏が話す。「社員の時は部下に失敗してもいいと言ってきたものの、いざ社長になってみると、決して失敗はできない。でもワーキンググループの場は失敗してもいい場だ。そこでのアウトプットを社に持ち帰り、実践してみる。その実践例を再び持ち込む。それを繰り返すことで、自社だけではなく、世の中が変わっていくことを願う」
高﨑氏は「まだよくわからない」と素直な感想を漏らした。「僕の仕事はCFOなので、資本の論理に向き合わざるを得ないが、このメンバーと一緒に向かい合って考えていきたい。日本は森の文化、西洋は砂漠の文化、という第二回ワーキンググループの話がとても面白かった。その砂漠の文化を森の文化で包含し、花を咲かせたり、木々を生やしたりしたい」
「さまざまな意味を見出していく取り組みの場になりそうだ」と水谷氏はいう。そして、会社の書棚で手に取った、著者・野中郁次郎、竹内弘高、両名の直筆サインが書かれた『知識創造企業』を取り出した。AIDA理論の基盤となる本である。水谷氏いわく、映画「スターウォーズ」における象徴的な武器、ライトセーバーを授かった気分だという。
松本氏はこう話した。「とても楽しい場だ。企業の規模も業種も歴史も違うが、同じような悩みを抱えていること、熱い志を持っていること、それが参加者の共通点だ。今の企業には失敗してもいい稽古場が足りない。ワーキンググループがそういう場になればいい」
コンソーシアム自体を 「移ろう」存在に
2時間強のプログラムの最後、みたび、安藤昭子氏が登壇し、閉会の辞(Final Address)を述べた。登壇者および聴衆に礼を述べ、こう話した。「皆で立ち向かわないと突破不可能な難しい課題に取り組んでいることを改めて実感した。今後ともぜひ力を貸してほしい」。会場のビジュアルは「utsuroi(移ろい)」と名付けられたAIDAコンソーシアム独自のコンセプトで統一されており、そのデザインはAIDAフェローの穂積晴明氏が考案したものだという。「このコンソーシアム自体が移ろい、変化していく存在でありたい」という安藤氏の言葉でシンポジウムが締め括られた。
その後が第二部の懇親会となった。同じ会場で飲み物と食べ物の台が設けられ、登壇者、聴衆入り混じり、十二社の夜が更けていく中、歓談の声がしばし続いた。
2026年2月4日「AIDAコンソーシアム シンポジウム2026」を開催いたしました。ご多忙の中、ご参加いただき、誠にありがとうございました。
初の開催ながら、100名を越える皆さまにご参加いただき、今後の社会へ向けての課題感や可能性、そして皆さまの熱気と大きな期待を共有いただく場となりました。
参加いただいた皆さまのアンケートの結果とともに、開催報告をお届けします。
開催概要
名称 AIDAコンソーシアム・シンポジウム2026
主催 一般社団法人AIDAコンソーシアム
後援 経済産業省 中小企業庁
日時 2026年2月4日(水) 17:00 – 20:00(開場 16:30)
会費 無料
会場 ベルサール西新宿ホール
東京都新宿区西新宿4-15-3 住友不動産西新宿ビル3号館1F
プログラム
※登壇者(敬称略)
第一部:トークセッション
1.Opening Address
AIDAコンソーシアム設立の背景と志をお伝えし、理論と実践をつなぐ立ち位置から、議論の起点を示しました。
株式会社編集工学研究所 代表取締役社長
2.AIDA Message
行政・企業・文化それぞれの立場から、複雑性と向き合うこれからの企業や社会のあり方について、多様なメッセージが語られました。
今後、中小企業が変化の時代を生き抜いていくために、日本的知性を現場で活かすためのフレームワークとして「方法化」することの必要性や、個人に宿る匠の技や精神を、組織で展開可能な仕組みへとつなげていくことの重要性が共有されました。また、変化を軸に価値を生み出してきた江戸文化の考え方や多様な実践についても紹介されました。
一橋ビジネススクール客員教授
法政大学名誉教授 / イシス編集学校学長
3.Panel Session
「複雑性を価値へと変える」をテーマに、日本的な知性や方法論を現代の企業経営や社会にどう活かしていくかについて議論が交わされました。暗黙知や職人的知性、遊びや情緒といった日本で息づいてきた感性を、AIや組織づくりと接続しながら、これからの価値創造へどう結びつけていくかが語られました。
名和 高司、田中 優子、安藤 昭子
リクルートワークス研究所アドバイザー
4.AIDA Working-group Update
ビジネスの現場で複雑性と向き合う会員企業の皆さまの実感とともに、これまで進められてきた議論と試行のプロセスを共有し、理論と現場を往復しながら体系化へ向かうAIDA理論の現在地をお伝えしました。
会員企業 AIDAワーキンググループ・フェローの皆さま
社長付共創事業開発担当 / プロジェクトディレクター
5.Information
2026年度の活動計画とコンソーシアムへの参画方法をご案内し、事業経営や組織変革にコンソーシアムがどのように貢献できるかをお伝えしました。
6.Final Address
シンポジウム全体を振り返り、AIDAコンソーシアムそのものが“移ろい”として変化し続ける存在でありたいという思いを改めて表明しました。また、日本の足元に息づく豊かな文化や知性を、これからの社会や組織に活かしていく決意を共有するとともに、ご参集いただいた皆さまへ感謝を伝え、今後の活動への協働を呼びかけました。
安藤 昭子
第二部:懇親会
ご参加いただいた皆さまの交流の場として、軽食とお飲み物を囲んだ懇親の時間を設けました。登壇者やAIDAコンソーシアムメンバー、会員・非会員の皆さまが立場を越えて語り合い、それぞれの関心や視点を交わしながら、新たな出会いや今後の共創へとつながる対話の場となりました。
アンケート
AIDAコンソーシアム シンポジウム2026にご来場いただいた皆さまへのアンケート結果をご紹介します。
今回ご参集いただいた方のうち、8割を超える方が非会員の皆さまであり、93.1%の方から「満足」「やや満足」との評価をいただきました。
普段、会員の皆さまと共に進めている活動や議論の一端を、広くお伝えする機会となりました。
AIDAコンソーシアムの活動への感想(抜粋)
AIDAコンソーシアムの活動や可能性への期待を寄せる声を多くいただいた一方で、まだ具体的な実装事例がなく、実装のイメージが掴みづらいというご意見もいただいています。
- 日本的方法をいかにビジネスの現場の共通方法として使えるようにするか、関心が深まりました。
- 非常に難しい、けれど、これからの日本にとって、重要なテーマを扱っていると改めて感じました。
- AIDA理論というロジカルではないものを社会実装していくにあたり、その現在地およびリアルな会員企業の方がどのように捉え、どんな可能性を感じているかそれぞれの(ポジショントークではない)率直な言葉でお聞きすることができたのは大きな収穫でした。
- 日本という切り口でのお話しでした。ほとんど賛同なのですが、日本もおそらく中層に位置するもの。深層に何があるのか?複雑なものを単純化したい誘惑に負けることなく、今後も深い世界へと導いていただきたいと願います。
- 会員企業の一社員として、AIDAコンソーシアムでこれから編まれていく新しい組織・経営の羅針盤を弊社内でも実践的に落とし込まれていくことが楽しみです。
- ここに中小企業を飛躍させるヒントがあるのではと思いました。私は大企業に勤めていて、皆、完成形を目指してしまうので、なかなか組織を変えるのは難しいです。でも、システム開発も組織開発も「最適解を磨き上げていく」と言うマインドの共有とプロセスの記録(特にうまくいかなかったこと)が必要と考えています。そのこととAIDA理論がアクロバチックにロスオーバーしていくかが楽しみでもあります。
- まだ始動したばかりとのことでしたが、はじまりの問いとしてとてもよいディスカッションでした。登壇者みなさんのお話はどれも示唆に富み、『見立て』の捉え方に個性が現れていました。
- とても興味深いと思いました。一方で、パネリストの方も仰られていた通り現時点ではクリアな事例などを聞くことができないために、結局どういうものなんだろう、という疑問が湧きました。でもそれもそういうものなのだと理解しています。
- 現場ビジネスのリアリティを踏まえたお話で大変分かりやすかったが、全体的にやや抽象的な概念の話が多く、実際のビジネスとどのように結びつくのかいまひとつ理解ができなかった。
多くのご意見・ご感想をお寄せいただき、誠にありがとうございました。
いただいた声を今後の活動に活かしながら、皆さまのご期待に応えられるよう、引き続き取り組みを進めてまいります。
レポート記事
以下より、「AIDAコンソーシアム シンポジウム2026」の様子をまとめたレポート記事をご覧いただけます。それぞれの登壇者の発表内容や当日の様子をご確認ください。
シンポジウム2026開催レポート|複雑性を力に変える動態経営―合理性の限界を超える―
2026年度は、AIDA理論の開発に加え、具体的なプロジェクトを通じた実装へ向けた取り組みも始動しています。
今後も、理論と現場を往還しながら活動を進めつつ、多くの皆さまに活動や実践の内容をお伝えする機会を作ってまいります。引き続き、AIDAコンソーシアムをどうぞよろしくお願いいたします。
2026年1月24日、 第2回AIDAワーキング・グループ「日本の編集力とコーポレートオントロジー」 が開催され、AIDリードフェローである名和高司さん、同・安藤昭子さん が講義を担当しました。 モデレータをつとめた奥本英宏が、議論が深まりつつあるAIDA理論の現在地について語ります。
株式会社カプタワークス代表取締役社長
株式会社インディードリクルートパートナーズ
リクルートワークス研究所アドバイザー
日本的方法の豊かな可能性
―― 早速、第2回となる今回のワーキンググループ、「日本の編集力とコーポレートオントロジー」の内容を振り返ってみていただけますか。
[奥本英宏(以下、奥本)] 合理的かつ合目的的な西洋的知性に対し、非合理も含む日本的知性を対峙させる。そのための方法論として日本的方法(編集力)を明確化し、それを実践するための企業のあり方を、講義と、フェロー同士のディスカッションで深める、というのが、今回の内容だったと思います。
日本的方法は変化や移ろいを前提とし、互いのイメージ交換や文脈をつなぐことを大切にして価値を創出していきます。変化の激しいこの時代において、果断なリーダーシップに頼るやり方に比べ、複雑性は高いものの、変化に適切に対応する有効な方法だと私は思っています。名和さんのお話にもあったように、カナダの経営学者、ヘンリー・ミンツバーグ教授はじめ、日本的方法を評価する欧米人も多いようです。
安藤さんは、昨年、邦訳が出された『複雑系としての社会史 社会・技術・環境の共進化と未来』(京都大学出版会)という書籍を紹介してくれました。著者であるオランダ出身の考古学者、サンデル・ファン・デル・レーウも、社会と環境の関係性に着目し、両者の橋渡しをする方法が見受けられるとして、日本を高く評価しているそうです。今回のセッションは日本的方法論を懐古趣味ではなく、新しい普遍性を持って再発見するための良い機会をワーキング・グループの.フェローの皆さんに提供できたのではないでしょうか。
森の文化、砂漠の文化という秀逸な二分法
―― ただ、日本的方法といっても説明が難しいのは確かです。
[奥本] おっしゃる通りです。八百万の神や多神教という話もあれば、侘びさびや茶の湯文化も外せませんし、クールジャパンのような文脈でいえば、アニメやコミックがその中心にきます。日常的な儀礼や作法、ものづくりのプロセスにも日本的方法が隠れており、複雑なその世界を理解するには何らかの手立てが必要になります。
それもあって、安藤さんから日本文化の特徴を説き起こしてもらいました。具体的には、文化には表層、中層,深層という三層があること、世界の文化は「森の文化」「砂漠の文化」に大別でき、日本は「森の文化」が浸透した典型的な国であることなどを説明してもらいました。しかも、事前の輪読会で、松岡正剛さんの著書『日本文化の革新』(講談社現代新書)をフェロー全員で読み込み、2回にわたって議論をしてきたのがとても役に立ち、当日の議論が白熱しました。
なかでも、フェローの人たちの心に刺さったのが、「森の文化」「砂漠の文化」という二分法だったと思います。砂漠の文化が一神教と馴染みが深く、絶対的なルールを尊重し、強いリーダーシップのもと、普遍性を求めるのに対し、森の文化は共生が求められる多神教的世界であり、ルールは融通無碍の相対的なもので、リーダーシップは強くなくて、物事の個別性が重視されます。
実はこの二分法はフェローの人たちの心に無意識に刷り込まれていたのだと思います。実際に「森」「砂漠」という対比概念が与えられることで、それが意識の遡上に上り、あの場で「そうだったのか」という認識が湧き起こったのではないかと思います。事後アンケートにも、「日本人は曖昧だとよく言われるが、それは森で生きるために必要だったということが腑に落ちた」という記述がありました。フェローの人たちの中に日本的方法論が普遍性をもった瞬間だったのではないかと思います。
―― W.G.フェローからの問いかけや意見も活発でした。
[奥本] そうでしたね。「四半期ごとの決算に代表されるように、期限を区切った現行の数値管理は経営に欠かせないものの、すべてをその対象にするのは間違いで、いい成果が得られない場合がある。そういう感覚を経営陣が共有し始めた」というあるフェローの話に、皆が共感してくれていたのが印象的です。また別のフェローは「世界で戦っていくためには、今日議論されているような日本的方法に依拠するしかないという実感を得た」と語り、心強い思いがしました。
昨今、日本には世界に通用する方法論がない、独自の文化や方法論はあるけれども、進化に取り残されたガラパゴスのようで世界には通用しない、という自虐論がはびこりがちですが、普遍性を持たせるような形で日本的方法を取り出すと強力なフレームになり得ると、皆が実感したのではないでしょうか。
一方で、課題図書を読んでの事前課題として、「意図している・いないに関わらず、『日本の編集力』が活かされていると思える自社の取り組み事例を3つ挙げてみてください」というお題を出したのですが、これはなかなか難しかったようです。安藤さんが説いた、表層、中層、深層という文化三層論でビジネスや事業を切ってみることを一からやってみないと、この問いには容易には答えられないかもしれません。あわせて、その作業自体が今後、このワーキング・グループで取り組んでみるべきテーマになるはずだとも思いました。
後半では、こうした方法論や文化を備えた国ニッポンにおいて、日本企業はどのような存在なのか、改めて考えようという意味で、コーポレートオントロジー(CO)を巡る議論に移行しました。
コーポレートオントロジーへ向かう5つの問い
―― コーポレートオントロジーについて詳しく教えてください
[奥本]コーポレート・オントロジー(CO)とは日本語に訳すと、「存在論的組織観」となります。コーポレート・アイデンティティ (CI) を超えて、「そもそも企業とは何か」を問い直しながら、世界との関係性の中で自己像を生成し続けるプロセスとのことを言います。
それは、どのような関係の網目の中で自己と世界を認識しているのかという「関係性」、何を保持し、何を変化させながら同一性を成してきたのかという「持続性」、内外の境界と他者との接続の仕方を、どのように設計するのかという「境界性」、ゆらぎのなかで、どのように意味・質が生み出されているのかという「生成性」、組織に潜在する組織文化、風土・規範・価値観や美意識は何かという「暗黙性」という5の問いがCOを問い直す手がかりとなります。COというと、「それは何ですか」という人が多いのですが、この5つをきちんと説明すると、大きく頷いてくれます。特に経営者がそうです。
言葉を変えれば、COとは日本的方法を企業内で生かすための、パソコンにおけるOS(オペレーションシステム)のようなものです。今まではOSをあまり考えずに、日本的方法の一部や海外から直輸入した方法だったり、いわば使い勝手のいいアプリだけを入れ込み、うまく動かそうとしたけれど、なかなかうまく行かないという状態が続いていたように思います。その問題をクリアするには、やはりOSをしっかり整えなければならない。OSとは具体的には企業独自の経営思想や人材観、組織観などです。それを変化の時代に対応できるように作り変えていく必要があります。
自分たちのOSを意識できるようになると、日本的方法は随分と実践しやすくなると思います。当日、そこを深めるための議論を行ったわけですが、より企業の実態をふまえた議論とするために、経営学者である名和さんに「カイシャがなくなる日」というタイトルの講義をしていただきました。
名和さんからはAIの先端的活用法から始まり、金融資産、物的資産、顧客資産、そして人財資産の4つを束ねる一番重要な組織資産に着目することの意義などを語っていただきました。最後はアート経営というコンセプトで、文化や物語、身体知、それこそ編集などをキーワードとした新しい組織観、企業観を提示してもらいました。こうした具体論との接続があったので、その後のグループディスカッションが非常にうまくいったと感じています。
―― C.O.というのは、他でも使われている言葉なのでしょうか。
[奥本]いや、違います。これはAIDAコンソーシアム独自の言葉です。CIと対になる概念ともいえ、その根底にあるものだと理解していただくのがよいでしょう。CIは自社を「こう考える」ということですが、その前段階として、自社と世界の繋がり方を考えるのがCOです。もちろん、その世界は固定されたものではなく、常時、揺らいでいます。当然、CO自体が可変的で不確かなものとなります。
経営の美学を改めて問い直したい
―― 企業の社員はその不確かなものと繋がっていないといけないことになります。
[奥本] そうですね。あるフェローが「企業は何によって社員と繋がっていくのだろう」という問いを発していました。 「利益を生み出す組織」と「仲間が集う組織」といった二項的な議論を超え、その中間、より緩やかな関わりの中で価値を発揮していく存在になるのではないか、といった議論も出ていました。
かといって、すべて一回やってはまた解散という単なるプロジェクトになってしまうかと思えば、それも違うでしょう。名和さんも言っていました。これからの企業は、中央集権型でもベンチャー型でも、自律分散型でもない、創発型になると。
企業が追求する価値に対し、社員もコミットして強みを発揮していく価値創造というプロセスは変わらないと私は思っています。しかも、それは野中先生が言っていたことにも通じる。人間が相互に関わり合いながら価値を生みだしていく、それが企業の原点だということですね。その理論化をこのワーキング・グループでぜひ実現したいと思います。
当日の前半のセッションでも触れたのですが、こうした企業の本質を突いた議論をすると、「どのようなスタイルでミッションやパーパスを実現したいのか」という美学が改めて問われるはずです。四半期の決算やコンプライアンス遵守に振り回されているような企業に、美学があるとは言えません。そうではなく、世間がどうであろうと、こういう思想で経営する、こういう考え方でマネジメントしていくという美学をいかに作っていくのか。容易に答えられない難問ですが、ワーキング・グループのフェローにはぜひそれを考えてもらいたい。もちろん、AIDAコンソーシアムもそれを考えるためのヒントを創出していきたいと思います。
AIDAコンソーシアムでは現在、会員の皆さまと共に現場の問いを掘り下げるワーキンググループと、松岡正剛と野中郁次郎の方法論の接続点を思想的な次元からひもとく分科会という、二つの場を両輪として、「AIDA理論」の理論体系の構築をスタートしました。
本記事では、AIDAコンソーシアム理事・AIDAフェローの奥本英宏が、理論開発の背景と、実装へ向けたAIDAコンソーシアムの現在地について語ります。
株式会社カプタワークス代表取締役社長
株式会社インディードリクルートパートナーズ
リクルートワークス研究所アドバイザー
―― まず、松岡さん、野中先生との出会いについて教えてください。
[奥本英宏(以下、奥本)] リクルートマネジメントソリューションズの社長だった2012年、松岡さんが主宰し、親会社のリクルートが参加していた次世代経営リーダー育成のための企業横断の研修プログラム「ハイパーコポレートユニバーシティAIDA」に参加したのが、松岡さんとの出会いです。とても大きな刺激を受け、その後、私費でISIS編集学校にも入りました。野中先生は著書を何冊も拝読して長らくのファンでしたし、仕事で何度かお会いしたことがありました。
―― この9月、そのお二人の理論や方法、そして思想をAIDA理論として融合し発展・実装を目指すAIDAコンソーシアムが発足し、活動の両輪となるワーキンググループと、AIDA理論研究の分科会という場が始動しています。
[奥本] 私はワーキンググループ、分科会の双方に関与し、それぞれをサポートしながら、つないでいく役割を担っています。
現在7社の会員企業から派遣された約15名が集まるワーキング・グループで、各自が持ち寄った経営課題をAIDA理論で読み解きながら新しい視点を発見し、それを研究チームや分科会に接続していきます。11月22日に「『変化として、生きる』ための知性」と題して、第一回目が東京・竹橋で行われ、30代後半から50代のワーキングメンバーが集まりました。
このワーキンググループでは、参加者のことを受講生ではなく、フェロー(仲間)と位置づけています。個々のセッションは研修ではなく、ワークショップであり、あわせて、フェローワーショップという仕立てです。ここにいる皆さんはそれぞれの知見を生かし、一緒にAIDA理論をつくり上げていく実践者なのだと冒頭で呼びかけさせていただきました。私も単なるファシリテーターではなく、チームの一員として意見を交わしていきます。初回にも関わらず、参加者は非常に前向きの姿勢でコミットしてくれ、自分たちの切実な課題や問題意識を話し合う素晴らしい会になりました。
マイクロマネジメントが蔓延し、遊びのない職場の現状
―― どんな話が出たのでしょうか。
[奥本] たとえば、現場がマイクロマネジメントに陥り、失敗は絶対に許されないという意識が蔓延して、いつの間にか、イノベーションが起こりにくい風土になってしまったという嘆きや、逆に、シリコンバレーに行ったら、外国人に「日本語にある『生き甲斐』というチャーミングな言葉について、その意味を詳しく教えて欲しい」と言われ、改めて日本が大切にしている独特な感性に気づいた、というような話も出ました。
真面目に遊ぶことがあってもいいのに、いつの間にか「真面目」と「遊び」が反対概念になってしまい、職場で遊ぶことが不謹慎になってしまった。遊ぶための余白をどうつくるか、試行錯誤の機会をどう増やすか、というテーマで話し合うのもいいかもしれない、という議論も出ました。経済的価値ばかりではなく、社会的価値の重要性を社内で共有するのが難しいという話もありました。これまでのやり方を墨守していると、過去の遺産を食いつぶすだけで新しいものが生まれず、事業が先細りしてしまうというのです。
話を聞きながら、「このままではまずい」という現状に対する危機感が伝わってきました。同時に、そうした閉塞的な空気を打破するための試行錯誤を皆さんが悩みながら実行されていることもよくわかりました。そうした知見も、AIDA理論の開発と実装に取り入れていくべきだという確信を得ることができました。
このワーキンググループは来年1月と3月に、それぞれ第2回、第3回が開催されます。来年度も5月から2カ月ごとの開催が決まっています。フェローの皆さんの問題意識と参加意欲が高いものですから、研究チームが検討中のAIDA理論構築のアイデアを前倒しで投げかけていきたいと考えています。
こうした先進的試みに参加してくれた企業が、自らの価値を高めるために切磋琢磨しながら、密度の濃い本気の議論を繰り広げる様子に大きな手ごたえを感じています。
日本的経営論と日本的方法論を融合させる
―― 分科会の模様も教えてください。
[奥本] ワーキンググループと連動してAIDA理論をブラッシュアップしていくのが研究チームです。そのチーム内に野中郁次郎先生の知識創造理論、日本的経営論と松岡正剛さんの編集工学、日本的方法論を融合させ、企業経営の実践知として広く活用できる理論に仕上げる場として分科会を設けています。編集工学研究所代表取締役社長でありAIDAリードフェローの安藤昭子さんと、野中研究室の研究員でありAIDAフェローの川田弓子さん、それに私の3名が中心メンバーです。その他に、編集工学研究所やAIDAコンソーシアムのメンバーが加わっています。 分科会は今まで、10月1日、10月29日、11月26日の全3回、行いました。第1回は野中先生の理論を、第2回は松岡さんの理論を深く学び、3回目は両者の重なりについて考えました。第1回は川田さんと、川田さんの夫で、野中郁次郎研究所の理事である川田英樹さん、第2回は安藤さんから、野中先生、松岡さんに関する様々な話を伺うことができました。
―― 川田さんとはどんな話をしたのでしょうか。
[奥本] 野中先生は、人間の本質は他者と関わりながら意味や価値をつくり出していくことだと繰り返し語っていました。そのこだわりはどこから来ているのか、と川田弓子さんに質問すると、学問と現場の乖離というものが背景にあったのではないか、という答えが返ってきました。つまり、米国のバークレーで最新の科学的人間像について学んだものの、日本企業の現場をくわしく探ると、まったくそのようには人は動いていない。人間の知や意欲は管理するものではなく、内面から湧き上がってくるものだ、と実感したそうです。結果、人間というものは物事を処理する存在ではなく、そこから意味や価値をつくり出す唯一無比の存在だと見なすようになったのでしょう、という答えで、私も大いに納得しました。
野中理論と松岡理論、その共通点と相違点
―― 二人の共通点はどうでしょうか。
[奥本] 野中先生と松岡さんの共通点は3つほど指摘できます。
1つは先ほどお話したように、物事の意味や価値というものを重視していることです。野中先生はその大切さを直接、語っていましたし、松岡さんのいう編集も、情報編集によって新たな意味や価値をつくり出すことを目的としています。人間社会において、数字で表される経済的価値よりも、より本質的な意味や価値の方が重要だということを二人は力説していました。
もう1つは、人間性の重視ということです。野中先生はそれこそ、ヒューマナイジング・ストラテジーという独自の戦略論を唱えました。数字ではなく、野生的な感覚や志といった人間くささのほうが大事なんだということですね。それに対して松岡さんは、編集は人間に代表される生命という有機体が生み出す宿命的なものなのだ、という持論を持っていました。
最後は動的であるということです。野中先生はダイナミック(動的な)という言葉を重用され、物事のプロセスに着目していた。松岡さんもそうで、編集は静的なものではなく、つねに動かし続ける「仮止め」でいいんだというのが口ぐせでした。
―― 逆に違いも浮かび上がってきたのでしょうか。
[奥本] はい。端的に言えば、感覚とか感情とか、感性といった、さまざまな「感」がありますが、その感に対する考え方が二人で違うという話になりました。野中先生はまず虚心坦懐に感じよ、というイメージです。現場に身を置き、空気を吸い、身体に取り込みながら、湧き上がってくる発想を大切にせよ、と。それは直接経験という言葉で表されます。
一方の松岡さんは感が発動しやすい方法論やアプローチを徹底的に考える立場です。たとえば、自分という凝り固まったフレームがあると、一定の感じ方から脱却できないので、「たくさんの私」といったものを意図的につくり出すとか、一個のリンゴを見た時も、果物の一つという認識だけではなく、マックのパソコンを思い出したり、アダムとイブという発想からキリスト教を想起したりといったように、異なる情報を連結させていくといった方法論です。感じるのに理屈は不要だというのが野中先生、感じるための理屈を考えるのが松岡さん。その二人の違いが逆に今後のコラボレーションに大きく役立つのではないか、という議論になりました。
例えば、野中先生いうところのSECI(セキ)モデルにおいて、最初の「共同化(S)」は、「直接経験のなかで五感を駆使し、他者の視点に立ち、暗黙知を創発・共有する」プロセスと定義されます。この共同化が松岡さんの方法論”によって、より豊かになる可能性があるのです。

SECIモデル出所:野中郁次郎による講義動画「知識創造理論」©野中郁次郎研究所
―― 面白い。その通り、野中流SECIモデルに松岡流・知の方法論を組み込んでいったらどうでしょう。
[奥本] そうですね。実はSECIモデルをベースとした、野中先生の二項動態経営モデルをターゲットにしています。この組織的基盤方法論のところ、自律分散系組織・ミドルアップダウン、場(知的コンバットなど)・スクラム、実践的推論、物語りアプローチといった部分に、松岡さんの編集工学が使えるはずで、方法を対応させて列挙してみよう、という話になっています。
AIDA理論創出と実践は自身のライフワークに等しい
―― 野中先生と松岡さんの知的遺産を融合し、新しい経営理論をつくり、実装していくというのがAIDAコンソーシアムの使命です。それは奥本さん自身のビジョンや志とどう関係するのでしょう。
[奥本] 僕が社長をやっていたリクルートマネジメントソリューションズのコーポレートスローガンが「個と組織を生かす」というものです。それはAIDAコンソーシアムの目指すところと同じだと思います。しかも、それはリクルート全体のDNAでもあります。野中先生も松岡さんも人間の可能性や創造性に大きな信頼を寄せていました。AIDAコンソーシアムの目指すところの実現がまさに僕のライフテーマでもあるのです。
そのライフテーマに取り組むうえで意識したいのが実践です。机上の空論を追いかけるのではなく、実践集団として動き、具体的事例をどんどん生み出していく。それを社会に還元しつつ仲間を増やすという活動サイクルが順調に廻るところまで、コンソーシムを成長させていくつもりです。
会員の皆さまの積極的な姿勢と現場からの問いに触発されながら、AIDA理論は着実に輪郭を深め、当初の想定以上のスピードで開発が進みつつあります。
来期には、AIDA理論を現場で活用するための、より具体的な方法論の開発にも踏み込み、実践へとつながる段階へ進んでいく予定です。その歩みを、今後も共有していきます。
11月22日から始まるワーキング・グループに先立ち、10月20日、一般社団法人AIDAコンソーシアムの設立を記念した懇親会を開催しました。9月1日の設立以来初めて、会員企業や関係者の皆さまが一堂に介し、当団体の船出を共に祝う場となりました。当日の様子を、登壇者の言葉とともにお届けします。
「松岡正剛は、日本を『一途で多様な国』と称してきました」。 AIDAコンソーシアムの安藤昭子代表理事が、開会の挨拶でこう切り出しました。AIDAコンソーシアムの知的基盤となる松岡正剛氏と野中郁次郎氏は、活動領域こそ異なれどその根底には深く通じ合うものがあったと、両氏が時を忘れて語りあった際のエピソードを引きながら、安藤は語ります。「物事のおおもとにある面影への思いは常に『一途』でありながら、そこから生まれてくるものは非常に『多様』なものがある」と、日本と2人の関係性を重ね合わせました。「AIDAコンソーシアムという場もそうでありたい。言葉にはならないような思いも瞬時に共有ができ、ここでエネルギーを得て、皆さまがそれぞれの分野で多様に飛び立っていくような場所に、一緒に育てていきたい」と決意を語りました。

AIDAコンソーシアムを「一途で多様な場」として会員の皆さまと共に育みたいと語る安藤昭子代表理事
続いて、野中氏が在籍した一橋大学ビジネススクールで教鞭を執っている名和高司AIDAリードフェローが、「雑誌『遊』の編集長だった松岡さんには、高校時代から勝手に片想いし、先生として慕ってきた。野中さんも80年代に企業進化論を出版された時から私淑してきた」と、松岡・野中両氏への深い敬意と感謝の思いを語りました。「残念ながら2人とも鬼籍に入られたが、安藤さんから声をかけていただき、なんとしても2人の遺志を継がなければと思った。皆さまの応援をよろしくお願いします」と呼びかけました。

松岡・野中両氏の思想を受け継ぐ決意を語る名和高司リードフェロー
その後は、立場を越えて語り合う和やかな歓談の時間に。初めての顔合わせとなった方も多いなか、終始打ち解けた雰囲気で、それぞれに抱える組織の課題感や、AIDAコンソーシアムの活動への期待を語り合いました。産官学の業種も業態も異なる方々が互いに思いを交わし合い、新たな挑戦への共鳴・共振が生まれる、あたたかなひとときとなりました。
今回ご参加いただいた会員企業様(敬称略)
ネットワンシステムズ株式会社 / 丸善雄松堂株式会社 / ヒューマンリンク株式会社 /
株式会社Kaizen Platform / アミタホールディングス株式会社 / 株式会社資生堂 / 株式会社リンクソシュール / 株式会社パラドックス

日頃の仕事の領域を越えて和やかに語り合う、ご参加の皆さま
会の終盤には、会員企業様からのメッセージもいただきました。三菱商事の人事部門を担うヒューマンリンク株式会社の田中啓介代表取締役社長は、同理論に期待を込め組織への活用を視野に入れております。「これまで決められたルールの中で平均的なアプローチを繰り返すことに、どこかワクワクしない自分を感じていた」と振り返ります。そんな中で出会った「すべてはプロセスであり、動き続けている」という視点に、強く心を動かされたといいます。「大切なのは、人が自ら学びを掴み取ろうとする“乾き”を生む環境をつくること」と、実感を込めて語りました。そして、「AIDA理論を企業文化のOSとして浸透させ、1200社ある三菱グループが少しずつ動き出せば、日本社会のこれからに貢献できるのではないか」と、力強く未来を見据えました。

現場の実感とAIDA理論への期待を語る、ヒューマンリンク株式会社 田中啓介代表取締役社長
松岡氏と交流の深かった、ネットワンシステムズ株式会社の竹下隆史代表取締役社長は、「松岡さんがよく言っていた、0と1のあいだのグレーゾーンに世界を作るという日本的知性がある。例えば、床の間という得体の知れない空間は西洋にはない。ここに季節ごとに花を変えたり、掛け軸を置いたりすると場の空間が一気に変わる。これはまさに『複雑性を豊かさ』に変えた瞬間だ」と強調し、AIDAコンソーシアムの構想資料にあった「日本的知性を礎に複雑性を豊かさに変える社会へ」という言葉を見て、参加を即決したとの話を打ち明けました。そして、「我々は世界を変えるIT企業になりたい。アナロジカルインテグレーションを少しでも会社のカルチャーにインポートしたい」と抱負を語りました。

「複雑性を豊かさに変える社会」への抱負を語るネットワンシステムズ株式会社竹下隆史代表取締役社長
閉会の挨拶では、AIDAコンソーシアムの住田孝之理事が、官僚時代の欧米駐在時に日本の価値を実感したエピソードを紹介。「日本の良さを語り続けなければいけないと思った。その一つの切り口が『間(ま)』。物事の本質は『間』にこそあるというのが根源的。これはまさに最先端技術の量子の世界を体現している。世界に誇れるこの大事な考え方への共感の輪を、AIDAコンソーシアムを通じて広げていきたい」と展望しました。

海外経験で感じた日本的方法論の可能性と、その展望を語る住田孝之理事
AIDAコンソーシアムは、分野を越えた共創の場として歩み始めています。 企業はもちろん、行政や地域、社会活動の現場など、多様な組織と問いやテーマを共有しながら、「一途で多様」なネットワークを共に育んでいけたらと思います。 皆さまのご参加をお待ちしています。
編集工学者・松岡正剛と経営学者・野中郁次郎の知と方法を継承し、複雑性を活かす21世紀の組織経営論の共創を推進。編集工学研究所と、研究者・産業界の実務家・多分野の専門家が協働する組織として始動
日本発の方法論によって組織の可能性をひきだし、複雑さを豊かさに変える社会をつくる活動体「一般社団法人AIDAコンソーシアム」(本社:東京都世田谷区、代表理事:安藤昭子)が、2025年9月1日に設立されました。
本団体は、松岡正剛の編集工学と野中郁次郎の経営学の知と方法と思想を継承し、日本的経営論として統合していく研究開発と実践の母体です。名和高司氏(京都先端科学大学 教授/一橋大学ビジネススクール 客員教授)、川田弓子氏(一橋大学ビジネススクール 野中研究室 研究員)といった野中経営論を継承する研究者や産業界の実務家が参画し、複雑性を活かす21世紀の組織経営論の創出をめざします。
■設立に至った背景
いま社会は、地政学的分断やAIの急速な普及、価値観の多様化など、複数の変化が重なり合う複雑な世界に直面しています。企業においてこれまでの合理的知性に基づく経済社会思想や経営手法だけでは対応できない課題が噴出し、いまや変化や複雑さをこそ価値の源泉とするような新たな経営パラダイムが求められる時代になっています。
日本は古来、地震や台風といった災害、四季折々の大きな変化といったうつろいゆく自然環境のなかで、複雑性を受け入れ、そこから価値を見出す知恵を育んできました。AIDAコンソーシアムは、こうした「日本的知性」を資源として再解釈し、複雑性を糧に価値を創出する方法モデルの開発・実装を通じて、複雑さを豊かさに変える社会を目指します。
■AIDA理論について
基盤となるAIDA理論(Analogical Integration of Dynamic Association)は、「あいだ」によって、複雑さを価値に変える21世紀の方法論です。ものごとの「あいだ」に潜む動的な関係性や、目に見えない価値に注目し、感受性や想像力を通じて複雑な内外環境を統合・編集することをめざします。複雑さを複雑なまま取り扱い、新たな価値創発につなげる理論です。
AIDA理論では、コーポレート・アイデンティティを超えて、「そもそも企業とは何か」までを含んだ組織の存在様式そのものを問う、コーポレート・オントロジー(存在論的組織観)という動的な視点を前提とします。暗黙的で数値化できない可能性から価値を生み出す日本的方法論を基盤に、イノベーションを創発する独自の型を開発。複雑性こそを価値の源泉とする「複雑性ケイパビリティ」を有する組織への変革を促します。
コンセプトビジュアル「utsuroi」は、日本文化の価値創出の方法と生命の環境適応の仕組みを重ねたデジタル作品です。柱立てに擬えた四つの動点が環境要因や互いの距離、過去の軌跡を常時計算し、複雑な相互作用のなかで「生きた間合い」を生み出します。秩序と混沌のあいだで唯一無二の姿を立ち上げ続ける──それは組織の動的なありようとも重なり、存在をプロセスと捉えるコーポレート・オントロジーの世界観を映し出します。
※自動生成し続ける「utsuroi」の様子は、AIDAコンソーシアム公式サイトTOPページよりご覧いただけます。https://aida-consortium.jp/
■AIDAコンソーシアムの主な活動領域
AIDAコンソーシアムは、以下の3領域を中心に活動を展開します。
1.理論研究:産官学によるAIDA理論の共同研究
AIDAフェローやアドバイザリーメンバーといった専門知を有するメンバーと会員組織が連携しながら、AIDA理論を探究・体系化を進めます。合理的知性に偏りがちな経営知を日本的知性によって補完し、複雑性に応答する新たな方法論を育てることを目指します。日本発の経営論として、グローバルに適用可能な理論へと発展させます。
2.共有知化:課題や知見を持ち寄り、文化・文明資本へ
企業取材やAIDA理論独自のナレッジアーカイブを通じて、組織のコーポレート・オントロジーを捉えなおし、組織に内在する知や文化資本を析出、一部を共有地として展開可能なものにしていきます。日常の活動に埋もれがちな知を社会に開かれた“文化・文明資本”へと転換し、企業価値の再編集と新たな価値創造の基盤づくりをめざします。
3.社会実装:現場での活用促進を仕組み化
個別企業の課題解決プロジェクトや実装支援ツールの開発、AIDA理論を実装できる人材の涵養プログラムの提供、異分野ステークホルダーとのワーキンググループや対話の場の運営を通じて、AIDA理論の現場での活用を支援します。パートナー企業と共に実装プロジェクトを展開し、複雑性ケイパビリティを醸成することを通して、産官学民をつなぐ共創基盤の形成をめざします。今後は官公庁や自治体との連携も視野に入れ、知の接続を加速していきます。
■連携体制
AIDAコンソーシアムでは、企業経営や知識創造に精通した実務家・研究者を「フェロー」として迎え、構想の実践と社会実装を推進しています。
以下に、本構想を索引する二人のリードフェローより設立にあたってのメッセージをご紹介します。
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安藤 昭子 AIDAリードフェロ― |
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名和 高司 AIDAリードフェロ― |
AIDAフェロー:
奥本英宏(株式会社カプタワークス 代表取締役社長/株式会社インディードリクルートパートナーズ・リクルートワークス研究所 アドバイザー)川田弓子(一橋大学ビジネススクール 野中研究室 研究員)
佐藤明(株式会社バリュークリエイト パートナー)
穂積晴明(株式会社編集工学研究所 研究員・デザイナー)
アドバイザリーメンバー:
大澤真幸(社会学者)
佐藤優(作家・元外務省主任分析官)
武邑光裕(メディア美学者)
田中優子(江戸文化研究者)
津田一郎(数理科学者)
今後も、多様な専門家・実務家をフェローやアドバイザリーとして迎え、複雑な課題に横断的に応答できる「知のネットワーク」を拡張してまいります。
■団体概要
団体名:一般社団法人AIDAコンソーシアム 設立:2025年9月1日 所在地:東京都世田谷区赤堤2丁目15番3号 編集工学研究所内 代表理事:安藤昭子 理事:住田孝之、奥本 英宏、束原俊哉、姜舜伊、大久保佳代、福地恵理 監事:座安剛史 事業内容:AIDA理論の研究開発、実装支援、会員組織運営、情報発信など URL:https://aida-consortium.jp/